特許訴訟における賠償額算定とその課題
2015/03/09 知財・ライセンス, 特許法, その他
現行特許法の賠償額算定
特許権を侵害する製品の存在が明らかになった場合、特許権者は、そうした製品を製造・販売・輸入する等している者に対して、損害賠償を請求できる。ただ、その立証責任は特許権者側にあり、その立証活動は困難な場合も多い。
そこで、特許権者の立証活動を容易にするため、特許法は、損害賠償額については算定規定を設ける(特許法102条)とともに、侵害者の故意・過失については推定規定を設けている(103条)。
そして、損害賠償額の算定方法については、具体的には以下の3種類が規定されている。
①102条1項
特許権者が特許権を自ら実施している場合(例えば、特許権者が自ら特許製品を製造・販売等している場合)で、侵害者が模造品を販売している事例では、
「損害額」=「侵害者の販売等数量」×「特許権者の1個単位あたりの利益」ー「特許権者が販売できない事情に相当する数量に応じた額」
となる。ここで、特許権者が販売できない事情とは、具体的には、侵害者の営業努力・市場開発努力、侵害者独自の販売形態やブランド等が模造品の販売促進に寄与したこと、模造品の販売価格が低廉であったこと、模造品の性能が優れていたこと、模造品における特許権者の特許発明実施部分以外の特徴が模造品の販売促進に影響したこと等がある。
また、そもそも、特許発明実施部分が特許権者製品の一部に限定されている場合には、損害額も特許権者製品全体における侵害部分割合に応じた金額に縮減されることになる(寄与率の問題)。
②102条2項
同じく特許権者が特許権を自ら実施している場合で、①のような算出ができない事例では、
「損害額」=「侵害者が得た利益」
となる。なお、寄与率の問題は①同様である。
③102条3項
特許権者が他社にライセンスして特許製品を製造等している場合は、
「損害額」=「ライセンス料相当額」(具体的には、「侵害者の販売等数量」×「特許権者の1個単位あたりのライセンス料」、「侵害者の売上高」×「ライセンス料率」など)
である。なお、寄与率の問題は①同様である。また、この③の規定は、損害額の最低ラインを法定した規定と解されており、損害額をこれよりも減額することはできない。そのため、①②による立証が困難な場合に③を選択することもありえる。
現行特許法下での課題
以上が現行特許法下での賠償額算定の方法だが、現在の日本では、損害賠償額の水準が他国と比較して低すぎるとか、そもそも特許権者側の勝訴率自体が低い等の指摘がなされている。
例えば、アメリカには、懲罰的な3倍賠償ルールがある。すなわち、特許権侵害が故意であると認定された場合には、現実の損害額の3倍まで賠償を命じることができる。また、勝訴率についても、日本の23%に比して、ドイツが63%、フランスも39%である。
一般に、特許の価値は、特許権侵害が認められた場合に裁判所が認定する損害賠償額にあると言われれることが多い。なぜなら、侵害者側からすれば、特許権侵害が認められても、その間に売り上げた額を支払って済んでしまうのであれば、結局は「侵害し得」になるからである。このように特許を取っても裁判で十分に守ってもらえないとなると、特許権者側としては、そもそも当該国へ特許を出願しなくなるし、当該国への事業進出のリスク要因にもなりうる。
こうした点を踏まえて、政府は、特許権者側の特許訴訟の利用を容易にするため、前述の損害額算定の規定を見直したり、訴訟における侵害者側の証拠不提出に罰則規定を導入する等して、特許権者側の勝訴率の引き上げと損害賠償額の水準の引き上げを狙う制度設計の検討に入る構えだ。
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