民法改正が及ぼす不動産賃貸借契約への影響
2015/07/01 契約法務, 不動産法務, 民法・商法, 住宅・不動産
敷金がちゃんと返ってくる?
不動産の賃貸借契約締結の際、敷金は借主が貸主に対して交付し、立ち退きの際に貸主から返還される金銭であるが、借主が賃料を支払わなかったり、復旧義務を怠っていた場合には、その分が差し引かれる。
現行法においては、敷金の返還義務については明文がなく、敷金の返還に関して当事者間でトラブルになることも多々あり、訴訟にまで発展するケースもあった。
今回の改正案においては、賃貸人の敷金の返還義務が明文化されている。
返還の範囲については、敷金の額から賃借人が負うべき債務を控除した額に限定されるものの、通常の使用に基づく損傷や経年経過による目的物の損傷については、立ち退きにおける賃借人の復旧義務には含まれないことも明記される。
これらは既に判例法理で固まっている解釈ではあるが、条文において返還義務および返還される敷金の範囲が明確化されれば、弁護士等の専門家に問い合わせたり、判例のリサーチをわざわざせずとも、当事者が自分で返還義務の範囲を確認しやすくなることから、事前の話し合いで解決しやすくなる。
そうだとすると今後は敷金の返還に関しては裁判にまで発展するケースがかなり減ることが期待できる。
もっとも、復旧に要した額を敷金から差し引いた事案で裁判に発展した場合、従来通りに争点は復旧した損傷が、「通常の使用に基づく損傷」もしくは「経年経過による目的物の損傷」にあたるか否かに絞られるが、最終的に裁判所の事実認定に委ねられるため、解決が遅延するおそれは未だにある。
この点については、裁判所が和解を促したり、当事者双方に訴訟代理人がいる場合は依頼者に和解を打診するなど、裁判を早期に終了できるように進行していくことが対策として考えられる。
また、関西圏においては「敷金」ではなく「保証金」との名目で運用されているが、改正案では名義のいかんを問わないため、今後は全国でより統一的に運用されることも期待できる。
賃貸借の保証も大きく変化
賃料の滞納など賃借人が本来負担すべき債務を負担しないケースに備え、賃貸借契約において保証人を立てている場合が一般的である。
この点について、今回の改正案は保証人が個人保証である場合は、保証契約締結の際には極度額(元本や利息等、保証人が保証債務に関して負う可能性のある限度額)を定めなければならない。
しかし、極度額についていかなる範囲が妥当かは、現状では未知数のため、今後の実務の動向を待つ必要がある。
賃借人が長期に家賃を払わない等、賃貸人に対して多額の債務を負う場合において、賃借人に支払い能力がなくても、個人保証であれば賃貸人は極度額の範囲で債権回収を図らざるを得なくなるため、充分な債権回収が図れなくなるおそれもある。
こういった事態を回避する手段として、保証会社等の法人を保証人とすることが考えられるが、賃借人と保証会社との間で保証契約を締結する必要があり、そのための保証金負担や保証契約締結の手間を賃借人が懸念して契約締結に至らないケースも想定される。
この点については、賃借人側があらかじめ不動産仲介業者を介するなどして賃借人がすぐに保証契約を締結できるようにしたり、できる限り保証金の安い会社を選択するなどの対策も考えられるが、同時に賃貸人の負担も増大する。
それでも契約の締結に至らなければ、個人保証に頼らざるを得ないが、賃貸人はリスクを回避するために保証人の選定を厳格に行ったり、極度額に満ちる前に債権回収を図ったりするなどの対策を講じなければならない。
このように今回の改正案のうち、賃貸借契約の保証に関する部分は個人保証における保証人の責任を減らす代わりに、賃貸人に大きなリスクを負わせ、そのリスク回避のための負担も増大させる危険性を有している。
先述のように、極度額の範囲については未知数ではあるものの、個人保証の場合における賃貸人の負担に見合い、かつリスクをできるかぎり回避できるような範囲での設定が求められるのではないか。
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