天災リスク、中小企業はどう戦う!?
2015/09/15 危機管理, 事業再生・倒産, 民法・商法, その他
想定外では済まされない天災リスク
鬼怒川の堤防決壊による水害、東京での直下型の地震、阿蘇山の噴火、と日本が天災の多い国であることを改めて認識させられるこの頃である。一部ネット上ではもはや大仏を建てるしかないという笑い話もあったようだが、大仏を建てたところで企業のリスクが回避できるわけもない。自社が直接被災するだけでなく、重要な取引先が被災すること、資材調達先が被災することも考えられる。また、取扱商品の市場に影響がみられるなどリスクは多岐に及ぶ。これらのリスクが現実化したとき、経営基盤が弱い中小企業にとっては影響は甚大である。天災の影響が沈静化するまで持ち堪えることができず、事業の縮小や廃業を余儀なくされるケースもあるだろう。
災害のリスクはいつ降りかかってきてもおかしくない。もはや想定外ではなく当然想定した上で対策をとる必要があるものだ。では中小企業はリスクを軽減するための対策として、大仏ではない何を建てるべきなのだろうか。そして、特に法務担当者はその中でどのような役割を担うべきか。
BCP(事業継続計画)とは
企業にとって天災リスク対策のなかで重要となるのが、BCP(事業継続計画)である。BCPとは、「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画」である。つまり、事業継続のため必要な措置を事前に定めることで、企業が災害等によって被るダメージを最小化しようという試みである。企業経営の視点からリスク顕在時の対応を考えるものであり、その企業ごとに現実に即した内容の計画を定める必要がある。
このBCPは、大企業では策定されているところは多いものの、中小企業においてはまだまだ広まっていない。しかし策定に踏み切れてはいないまでも関心が高まっている分野であり、今後加速度的に中小企業のBCP作成が増加すると予想される。
国(中小企業庁)も中小企業のBCP策定を支援するため「中小企業BCP策定運用指針」をウェブ上に公開している。企業の規模や望む内容に応じて4通りのコースを設け、具体的に事例を掲載するなど、丁寧で分かり易い内容にまとまっているため、BCP導入を考える中小企業には一見の価値があろう。
このように、BCPの策定は国も関わり、今後一層推し進められるはずだ。最近では、企業法務を扱う弁護士事務所やコンサル会社もBCP策定をビジネスチャンスとみて提案を行っている。
法務担当の立場から
では企業でBCPを策定すると決まったとき、法務担当者はどのように関わり、役割を担うべきか。
答えから述べれば、法務担当は取引先との契約等、対外的な面で役割を果たす事になるだろう。BCPは様々なマニュアルが示された言わば災害時のフローチャートのようなものであるが、契約の面からこれを実現していくことになる。
例えば、あらかじめ取引先と事業復旧のための協力・支援や事業中断に対する免責等について合意を結んでおくことである。契約書に、災害発生時の具体的な復旧活動の内容や免責事項、契約条件の変更や解除の方法について盛り込んでおくことによって合意が形成できる。災害により担当者が不在となった場合でも契約書に書かれていれば一目瞭然であり、トラブルや確認の手間は省けるはずだ。
また、代替生産や代替調達など緊急時の代替手段を確保しておくことも必要である。これについても、取引先と交渉して契約書に盛り込んでおくことは有効だ。その他にも別な調達先と契約を結んだり、復旧をサポートする専門会社に依頼を行っておくなど外部資源を確保する手段を事前にとることが可能である。代替手段を用意することで災害時の事業の停止を最小限に食い止め、リスクを大幅に軽減することができる。
さらに、現在結んでいる契約についても検討する必要がある。契約義務が果たせない場合、その原因が「不可抗力」によるものであるかどうかが問題となるが、災害などの非常事態では何が不可抗力であるか明確でない。不可抗力であると思い込んで義務を果たさなかったとき、後から債務不履行責任を問われることのないよう、自社が結んでいる契約の内容を明確化しておく必要もある。
特に中小企業の法務という立場からは、地域の他の中小企業とどのように連携をはかるかといった点も重要となろう。各企業の担当者と交渉を行って関係を結んでおくこと、可能ならば書面にしてマニュアルを作成しておくことも効果的であるといえる。
まとめ
今後BCPが中小企業の間でも拡大するとき、法務担当者としてこのような視点を持った契約を結ぶことで企業のリスク軽減の力となれる。天災リスク管理が常識となるその前に、そして何より実際に天災が起きるその前に、法務として知識を得て対応することが大切であろう。
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