公益通報者保護制度のこれから
2015/12/24 コンプライアンス, 民法・商法, その他
1. 概要
今月の九日、消費者庁で公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会が開催された。この検討会は今年6月から複数回にわたって開催されており、今回の開催は第6回目にあたる。消費者庁では、平成18年4月に施行された公益通報者保護法が事業者に必ずしも十分に認容・運用されているとはいえない状況にあることから、昨年度において、様々な立場の有識者・実務家等に対しヒアリングを実施していた。このヒアリングの結果等を踏まえ、公益通報者保護制度の実効性向上のための方向性について検討するのが、この検討会の趣旨である。
2 公益通報者保護法の問題点
前提として、同法は主に、①保護される公益通報、②公益通報者の保護、③公益通報を受けた事業者・行政機関の対応、で構成されている。
問題点1 保護主体が労働者に限定されていること
公益通報者として保護される労働者には、正社員だけでなくアルバイトなども含まれる。もっとも、元従業員は含まれず、また、事業者の不正・違法行為をより知りうる立場の役員等が含まれていない。
問題点2 通報対象事実が限定されていること
通報は雇用者や派遣先等に関することが必要であるが、これに加え、刑法や食品衛生法等の通報対象法令に違反する行為であることが必要となる。税法違反行為等は対象外であり、これら一部の違反行為が通報対象事実とならない。
問題点3 通報先によって通報者保護要件が異なること
通報先としては、「内部通報」、「行政機関通報」、「外部通報」があるが、通報先によって、通報対象の真実性の程度(通報対象事実の発生を思料する、~の発生を信ずるに足りる相当な理由がある、等)が異なることが規定されている。「外部通報」が保護される要件は最も厳格であるため、通報者による通報を躊躇わせてしまっている。
問題点4 通報者に対する保護が十分でないこと
保護対象となる通報者に対しては、公益通報を理由とする解雇等や減給・降格等の不利益取扱が禁止されることとなる(法3条ないし5条)。また、通報者による通報が各要件を充足しない場合でも、通報者に対する解雇等は解雇権濫用法理(労働契約法16条)で保護される。その他不利益な処分についても個別に正当性が判断されることとなる。
もっとも、通報者に対して事業者が報復措置・不利益処分等を行った場合でも、事業者に対する罰則規定はないため、報復措置・不利益処分等から通報者を十分に保護できるか難しいといえる。
問題点5 制度の把握が困難
通報者や通報対象事実の範囲を限定することや、通報先によって保護要件が異なるといった通報保護要件の厳格・複雑化が制度の正確な把握を困難なものとしてしまい、事業者が公益通報者保護制度を運用し難い現状がある。
日本弁護士連合会も、公益通報者保護の趣旨や考え方が社会に浸透・定着していない状況・経緯を踏まえ、2011年から数回具体的な改正内容を含む提言を行っている。そして、今年9月にも公益通報者保護法日弁連改正試案を内閣府特命担当大臣や消費者庁長官等に提出するという動きを見せている。
3. まとめ
公益通報者保護制度を巡る動きを踏まえれば、いずれ公益通報者保護法が改正されることは想像に難くないといえる。この動きの背景には、企業の法令遵守に対する認識が低いことやその促進が難航していることが考えられる。企業においては、法が改正されるのかどうか、改正された場合の改正内容はどのようなものか、という点に着目することも重要であろう。とはいえ、法令遵守の体制を迅速に構築しこれを徹底することが、まず企業に求められているのではないだろうか。
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