企業によるADR(裁判外紛争解決手続)の活用について
2016/01/19 事業再生・倒産, 民法・商法, その他
1、事実の概要
福島県は東京電力福島第一原子力発電所事故への対応で増えた人件費などの約10億円の支払いを東電に求めるために、国の原子力損害賠償紛争解決センターにADRを申し立てる予定であると1月15日付日本経済新聞電子版が報じました。
以下では、ADRのメリットとデメリット及び企業におけるADRの主な活用方法をまとめました。
2、ADRについて
ADRとは、裁判外紛争解決手続といい、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律に規定されています。この手続は、まず当事者の一方がADRを公的な機関や民間の機関に申し立て、これに対してもう一方の当事者がADRによる紛争の解決を了承した場合にのみ行われる解決手続です。そして、法律や専門的知識を持った第三者が公平公正な立場で当事者の間に立ち、双方の言い分を聞いた上で話し合いによって紛争を解決するものです。
ADRを申し立てる機関は公的機関と民間の機関との2種類があり、主な公的な機関は原子力損害賠償紛争解決センター、公害等調整委員会、国民生活センターです。また、主な民間の機関の例としては、日本弁護士連合会交通事故相談センターが挙げられます。
3、ADRのメリットとデメリットについて
(1) メリット
法律の規定によらず紛争の実情に即した柔軟な解決が可能です。具体的には、専門知識のある第三者が係るため当事者のニーズにあった紛争解決を図ることができます。さらに、話し合いが行われるため紛争の解決には自主的判断に委ねられる部分が多く円満に解決を図ることができます。また、ADR手続は、非公開であるため両当事者以外の人がその内容を知ることはありません。さらに、申立手続が簡単で裁判手続よりも費用が安く迅速に紛争を解決できます。
(2) デメリット
相手方が参加しない場合には、紛争解決が図れません。さらに、裁判官でない第三者が参加するので公平性・公正性が確保できるか不明です。
4、企業におけるADRの活用場面について
企業におけてADRを活用する場面として、事業再生ADR制度というものがあります。この制度は、経済産業大臣の認定を受けた公正・中立な第三者が関与することにより、過大な債務を負った事業者が法的整理手続によらずに債権者の協力を得ながら事業再生を図ろうとする制度です。
この制度の特徴は、会社更正とは異なり必ずしもすべての債権者を手続に入れる必要はなく債権者を金融機関に限定し取引を継続しながら債権整理をすることができます。もっとも、事業再生ADR利用者は、再建計画案を作成したうえ手続に参加する債権者全員の同意を得なければなりません。一人でも同意を得られない場合には紛争解決がなされず法的整理に移行します。
5、まとめ
事業再生ADRの利用には、再生手続に加わる債権者の全員の同意を得なければなりません。互いに利害関係がある債権者の全員の同意を得ることは難しく、この手続による紛争解決は困難であると思われます。
もっとも、債権者全員の同意を得られれば、会社更生法や民事再生法などの企業価値を著しく毀損しかねない法的手続によらずに、債権者と債務者の合意に基づき、経営困難な状況にある企業を再建することができます。
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