東芝の不正会計とコーポレートガバナンス
2016/03/17 コンプライアンス, 商事法務, 会社法, メーカー
はじめに
東芝は3月15日、2010年度から14年度までに、7件58億円の不正会計があったと発表しました。内部通報をうけた社内調査などで発覚したようです。東芝は、すでに去年の中間決算などで損失処理をしていましたが、これまで公表していませんでした。これについて、東芝は「適時開示の基準に該当していなかったが、発表すべきだった。社内の情報共有に不十分な点があった」としています。東芝のコーポレートガバナンスの仕組みはどのようなものだったのでしょうか。コーポレートガバナンスという言葉をよく耳にするようになってから幾年も経ちますが、その仕組みはきちんと守られているのでしょうか。
コーポレートガバナンスとは
コーポレートガバナンスとは、企業の不正行為の防止と競争力・収益力の向上を総合的にとらえ、長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組みのことをいいます。コーポレート・ガバナンスの目的は、企業不祥事を防ぎ会社の健全な運営を図ることにより、長期的な企業価値の増大を図ることにあります。不祥事が明るみに出れば会社はイメージダウンは免れません。現に東芝の株価は、不正会計が発覚してから半分以上値を下げてしまいました。適切な内部統制システムを作りそのシステムを守ることは、会社にとっても長期的な利益をもたらすのです。
会社法上のコーポレートガバナンス
会社法の下では、株式会社は、トップ・マネジメント組織のあり方として、
(1)従来型の取締役会設置会社
(2)委員会設置会社
(3)非取締役会設置会社の3種類の構成を選択することができることになっています。
そして、新たにコーポレート・ガバナンスに対応した規定が作られ、
(1)すべての大会社に対し、内部統制システムの一環である業務の適正を確保するための体制の構築の基本方針を決定することを義務づけること
(2)株主総会における取締役の解任決議要件を特別決議から普通決議に緩和すること
(3)主に中小企業で利用されることを想定した会計参与制度の新設
など、コーポレート・ガバナンス確保のための措置が講じられています。
東芝の組織形態・内部統制システム
東芝は委員会設置会社であり、監査委員会が取締役会を監視するという組織形態を採っていました。また監査委員会の下には内部監査部や監査委員会室という、代表執行役やその他の執行役を直接監査する部門もありました。それでも不正会計が起こってしまったのです。本件については、経営トップらによる目標必達のプレッシャー、上司の意向に逆らうことができない企業風土、経営者における適切な会計処理に向けての意識の欠如などの複合的な要因があいまって、内部統制が無効化され、会計処理基準が適切に運用されていなかったことにより発生したものであります。このため、取締役会、監査委員会といったガバナンスの観点から監視・監督を行うべき機関における内部統制が実質的に機能していませんでした。つまり内部統制システムがあっても、それが会社内部で守られていなかったという事件なのです。
その他のコーポレートガバナンスが問題になった事件
長年にわたって隠ぺいされてきた巨額損失隠しが発覚したオリンパス事件、ほぼ同時期に創業者一族の経営者が多額の資金を海外での賭博に流用していた大王製紙事件によって日本企業のコーポレートガバナンスを問い直す議論が持ち上がっています。この2つの事件と今回の東芝事件は共通していて、先進的なコーポレートガバナンス態勢は整っていましたが、それが絵に描いた餅になっていたことです。規制体制があっても、それが実際守られていなけば意味がありません。またライブドア事件では、有価証券報告書の虚偽記載が問題になりました。ライブドアは企業規模に応じたガバナンスを備えておらず、社外監査役は2名いましたが、これは会社法が定める最低限に過ぎません。また取締役会は事業担当者で占められて、機能しなかったといえるでしょう。その結果、莫大な損失を投資家に与えたのです。
社外取締役の活用
大和総研が実施した意識調査で、社外取締役を活用することで自社の企業統治が「変化した」と答えた上場企業が7割超に達したそうです。社外取締役の有効な活用は、上場企業の経営に緊張感をもたらし、コーポレートガバナンス態勢を守らせる姿勢を定着させることにつながりそうです。社外取締役という役職名でなくとも、会社の利益と関係がない第三者を交えて会社を監視することがコーポレートガバナンス態勢を守る第一歩となるでしょう。会社の利益と関係ない第三者は内部の利益とは無関係であり、不正会計等を発見したら企業風土に関係なく報告がなされることが期待できます。
コメント
東芝も、「財務報告に係る内部統制の重要性を認識しており、開示すべき重要な不備を是正するために、第三者委員会からの提言を踏まえて、今後の経営体制、ガバナンス体制、再発防止策等を着実に実施していくために経営刷新委員会を設置する」としています。会社法によってコーポレート・ガバナンスに対応した規定は各会社に作られています。大会社のほとんどは内部統制システムはあると思います。しかし、第三者を使うといった、そのシステムを実際に守るシステムを会社は作らなければなりません。経営者の皆様には自分の会社を含めたどこの企業でも不正会計は起こりうる事、という危機感をもって、それぞれの企業に合ったシステムを実際に守るシステムを講じていって欲しいと思います。それが、長期的には会社の利益につながるのです。
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