公取委がキャノンの東芝メディカル買収手法に注意、企業結合規制について
2016/07/01 独禁法対応, 独占禁止法, メーカー
はじめに
公正取引委員会は30日、キャノンの東芝メディカル買収に関し、その手法を問題視し、キャノンに対し制度の趣旨を逸脱しているとして注意を言い渡しました。ある程度の規模の企業がM&Aを行う場合には独禁法上の手続を要する場合があります。今回は企業結合規制について見ていきます。
事件の概要
東芝は今年3月17日、医療機器関連子会社で画像診断装置国内最大手の東芝メディカルシステムズの全株式をキャノンに売却する契約を締結していました。売却額は約6655億円でキャノンは国内及び国外での法手続が完了するまでは独立した第三者であるMSホールディングスに議決権を保有させるとしていました。このような場合、通常は独禁法に基づき公取委の審査が終了してから決済を行うことになりますが、財務状況が厳しく3月末までに代金が必要であった東芝は東芝メディカル株を一旦第三者である特別目的会社に移転させ、キャノンには新株予約権を代わりに発行し代金を公取委の審査が終了するまでに支払わせていました。
企業結合規制とは
独禁法9条~18条では企業が株式の保有、役員兼任、合併、分割等の企業結合を行う場合に事前に公取委に届出を行い審査を受けることを義務付けています。カルテルや談合が独禁法上禁止されていることと同様に一定の規模の企業が結合することによって市場における競争が減殺されることを防止することが趣旨と言われております。独禁法上の企業結合規制は大きく二種類あり、一般集中規制と市場集中規制に分けられます。一般集中規制とは市場とは関係無く国民経済に影響を及ぼすほどの事業支配力の過度の集中を規制しています(9条、11条)。それに対し市場集中規制は個々の市場における競争の実質的制限を問題とします。まずは市場集中規制を審査し、一般集中規制はその補完的な規制であると言われております。株式取得の場合国内売上高が200億円を超える企業が、売上高50億円を超える企業の株式を20%(保有割合が1位となる場合)または50%を超えて取得する場合に届出を要します(10条2項)。これは市場に影響を及ぼす程度の結合の度合いの強さによるもので、合併や新設分割、吸収分割はより結合の度合いが強い形態と言えます。
企業結合規制の手続
上記の要件に該当する株式取得会社や合併会社等はあらかじめ公取委に計画を届けなくてはなりません(10条2項等)。届出が受理されると公取委は市場における競争への影響の程度等を審査し「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」かを判断することになります。届出が受理されてから30日を経過するまでは株式を取得し決済することは禁止されます。この期間は公取委が必要と認める場合には短縮されます(10条8項)。公取委が問題有りと判断し排除措置命令を出すことになる場合には、上記期間内にその内容、適用法条、認定事実等を通知することになります(10条9項)。事前の届出を怠った場合、又は虚偽の記載をした届出を行った場合、上記期間の満了を待たずに株式取得を行った場合には200万円以下の罰金が課されます(91条の2第1項3号、4号)。
コメント
本件で公取委はキャノンによる東芝メディカルの株式保有は一定の取引分野における競争を実質的に制限することにはならないとしました。日本国内における医療用画像診断装置の分野で価格、供給量等をある程度自由に設定出来る程度の市場支配力を生じさせるまでには至っていないと判断されたと言えます。しかし一方で東芝が行ったキャノンとの代金決済は10条の法意を逸脱するものであるとして行政指導である「注意」を言い渡しました。10条8項は30日が経過するまでは株式は取得できないとしています。確かにキャノンは株式を取得したわけではなく、第三者に取得させて代金を支払いました。しかしこのような手法が許容されるのであれば、株式を一時的に保有する第三者を介在させれば期間満了を待たずに取得できることになり10条8項の潜脱が可能となってしまいます。公取委はこのような手法は許されるべきではないとして以後同様のやり方は認めない旨発表しました。10条8項但書では公取委が必要と認める場合に期間短縮ができるとしています。本件で東芝はそれが認められない場合を想定してこのような手法に出たのではないかと考えられます。今後このような手法を取ることはできないことから、審査期間の30日分は余裕をもってM&Aの計画を立てることが重要と言えるでしょう。
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