日本製電磁鋼板に反ダンピング課税、中国の反ダンピング法について
2016/07/29 海外法務, 外国法, メーカー
はじめに
中国政府は25日、日本製、EU製、韓国製の方向性電磁鋼板に反ダンピング関税を課税する決定をしたことを発表しました。これにより日本製電磁鋼板には39%~45.7%の関税がかかることになります。今回は中国における反ダンピング法の概要について見ていきたいと思います。
事件の概要
日本及びEU、韓国は中国に対し方向性電磁鋼板を輸出しています。電磁鋼板とは磁気特性を有する鋼材で主に電気機器の鉄心の材料として使われます。磁気特性に障害となる炭素や窒素、硫黄といった不純物を極限まで取り除いた特殊な鋼材です。電磁鋼材には方向性電磁鋼材と無方向性電磁鋼材があり前者は主に送電用の変圧器に使用され、後者は主にモーターに使用されます。方向性電磁鋼板を製造できるのは世界でも限られており、日本の新日鉄、JFEスチール、独ティッセン・クルップ、韓国ポスコとなっております。昨年5月、中国の鉄鋼大手武漢鋼鉄集団がこれらに対しダンピングの疑いで提訴、7月から中国政府の調査が始まっておりました。日本企業側の応訴手続を経て今月25日、中国政府は反ダンピング関税の課税を発表しました。課税率は日本が39%~45.7%、EUが46.3%、韓国が37.3%となっております。
中国における反ダンピング法
ダンピング(不当廉売)とは市場の健全な競争を阻害するほど不当に安い価格で商品を販売することを言います。各国の競争法等で規制されており、中国では2001年のWTO加盟を機に法整備がなされました。中国の反ダンピング法は「アンチダンピング条例」と「アンチダンピング産業損害調査規定」が中心となっております。これらはWTOのアンチダンピング協定を参考に制定されており、中国でも国際貿易のルールに則った法整備がなされていると言えます。
ダンピングの実体的要件
アンチダンピング条例2条によりますと、輸入製品がダンピング方式により中華人民共和国の市場に導入され、それによって中国国内ですでに確立された産業に実質的損害をもたらし、もしくは損害のおそれを生じさせ、又は国内産業の確立を実質的に阻害する場合には、本条例の規定に従って調査し反ダンピング措置を講ずるとしています。つまりダンピングの実体的要件として①輸入製品が通常の商取引における正常な価額を下回る価格で中国に導入されており(ダンピングの存在)②中国の国内産業に実質的に損害を与え、又は与えるおそれがある場合(損害の発生)③両者間に因果関係が存在することが挙げられます。ダンピングが認められた場合、ダンピング幅の範囲内で最大5年間反ダンピング関税が課税されることになります(37条、42条、48条)。
手続の流れ
中国における反ダンピング課税の手続は、通常中国内の企業が中国商務部に提訴することから始まります。商務部により立件調査の決定がなされますと、その旨広告されます。利害関係を有する企業がある場合は商務部に応訴登記を行います。これにより商務部からその企業に対して質問状等が送付されてきます。応訴企業は送付された日から37日以内に回答書を提出することになります。これらの応酬を経て仮決定がなされ、場合によっては公聴会等を開いた上で最終決定となります。これらの手続は原則1年以内に終了しますが事案によっては6ヶ月を限度に伸長されます(26条)。
コメント
本件課税処分について日本鉄鋼連盟の進藤会長は「日本製の方向性電磁鋼板の輸出が中国国内産業に損害を及ぼした事実はない」と主張してきており「不当かつ極めて遺憾」としています。これにより日本は韓国製電磁鋼板よりも高い関税がかけられることになり、日本製の価格競争力が減少することが見込まれます。今回の中国の措置は2014年にEUが中国に対して行った反ダンピング措置に対する報復措置としての意味合いが強いと言われております。また昨今の南シナ海での領有権争いに関連した報復の意味合いが含まれていることも考えられます。中国の反ダンピング法の内容及び手続はWTOの規定に準拠した国際的にも妥当なものとなっておりますが、それを適用し執行する過程で中国政府の政治的意思が介在することが多々あると言えます。世界的に見てもダンピング課税の件数は中国が圧倒的多数となっております。中国への輸出の際にはこれらの国内法だけでなく、政府の意向による突発的な規制も念頭においてリスク管理することが重要と言えるでしょう。
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