出光創業家が相互出資案に反発、「新株発行差止」について
2016/12/12 商事法務, 戦略法務, 会社法, エネルギー関連
はじめに
出光興産と昭和シェル石油が合併に先立ち株式の相互保有による資本提携を検討していることについて、出光興産の創業家が7日、反対の意向を示しました。相互保有のために第三者割当増資を行う場合は発行差止の措置を講じるとしています。今回は新株発行差止について見ていきます。
事案の概要
現在合併を目指して調整中の出光興産と昭和シェル石油はそれに先行して資本業務提携を行うことを検討しています。両社は互いに2割程度の株式を保有しあって精油所や物流の一体運営を行うことが目的です。合併について公取委による承認が降りた後英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが保有する昭和シェル株の33%分を取得し8%を信託銀行に預ける予定です。一方の昭和シェルも第三者割当増資により出光興産から2割程度の出光株を取得する予定としています。これに対して出光興産の3分の1の株式を保有する出光創業家は反対の意向を示し、第三者割当増資の際には差止を行う旨主張しております。
株式の相互保有とは
2つの株式会社が互いに相手の株式を保有しあうことを相互保有と言います。取引や業務の提携、関係強化、保有株式の安定化、株価の安定化等を目的に行われます。しかし一方で相互保有には資本の空洞化や株価操縦、議決権の歪曲化といった弊害があると言われております。そこで会社法は株式の相互保有に対し一定の規制を設けております。308条1項括弧書きによりますと「株式会社がその総株主の議決権の4分の1以上を有することその他・・・法務省令で定める」場合には互いに議決権が認められないこととなっております。つまり相手会社の25%以上を保有すると議決権制限にかかるということです。出光興産と昭和シェルはこの規制に則り、互いの保有割合を25%以下に調整しているということです。
新株発行差止について
株式会社が新たに株式を発行しようとしている場合、株主は一定の要件のもとで発行差止請求を行うことができます(210条)。不適切な新株発行によって株主自身が受ける不利益を事前に防止し株主の利益の保護を図ることが目的の制度です。株主は発行を行おうとしている取締役等に対して口頭や書面で請求することもできますが、実効性を担保するために一般的には民事保全法に基いて裁判所による仮処分を申し立てることになります。以下具体的な要件を見ていきます。
差止請求の要件
(1)法令・定款違反
新株発行の手続等が会社法や定款に違反している場合です(210条1号)。株式の発行には会社法上細かく手続が規定されております。これらの規定に違反した場合には法令違反となります。たとえば発行予定価格が市場価格に比べて大幅に安い場合、すなわち有利発行に当たる場合には株主総会で理由説明をした上で特別決議による承認を必要とします(199条3項、309条2項)。この株主総会の承認決議等を得ていない発行は法令違反となります。また定款に記載されている発行可能株式数を超える発行の場合には定款違反となります。
(2)著しく不公正な方法
新株発行が法令や定款には違反していなくても、著しく不公正である場合には差止を行うことができます(210条2号)。どのような場合が著しく不公正であると言えるのかについて裁判例は「支配権につき争いがある場合に、・・・特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたとき」又は「特定の株主の持株比率が著しく低下することを認識しつつ・・・正当化させるだけの合理的理由がない」場合に不公正発行に当たるとしています(東京地決平成元年7月25日)。これをいわゆる主要目的ルールといいます。そして会社に具体的な資金需要があり、その調達を目的としている場合には不公正発行には当たらないとしています(東京高判平成16年8月4日)。つまり新株発行の目的が会社支配権維持にあるときは不公正ということです。
(3)株主が不利益を被るおそれ
上記法令・定款違反か著しく不公正のいずれかに該当し、株主に不利益が生じるおそれがある場合には当該株主は発行差止請求を行うことができます(210条本文)。ここに言う不利益とは議決権割合が低下する場合や新株発行によって株価が下落し保有株式の価値が低下する場合等が考えられます。
コメント
本件で出光興産の創業家は33.92%の出光株を保有しております。出光興産と昭和シェル石油が合併を行うためには株主総会の特別決議による承認が必要となります(309条2項)。特別決議とは出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を必要とし、出光興産の3分の1以上を有する創業家が反対する場合には可決は不可能となります。この状況下で出光興産が第三者割当で新株発行を行った場合、創業家の持株比率が低下し3分の1を切る可能性も出てきます。原状出光興産に資金調達の必要性が認められず、主要な目的が創業家の持株比率を低下させ、合併の承認決議を得ることと判断された場合には差止が認められう可能性もあると言えます。以上のように新株発行の目的は本来会社の資金を調達することにあります。それ以外の目的で株式を新たに発行する場合は既存株主からの差止請求に注意が必要です。発行手続が法令や定款に違反していないことは当然として、その主要目的が会社支配維持に当たらないか、株主に不利益は生じていないかを吟味して差止請求や発行無効の訴えに備えることが重要と言えるでしょう。
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