三井住友トラストがガバナンス体制刷新へ、指名委員会等設置会社とは
2017/03/15 商事法務, 会社法, その他
はじめに
三井住友トラスト・ホールディングスは先月14日、6月開催予定の定時株主総会をもって指名委員会等設置会社に移行する旨発表しました。コーポレート・ガバナンス体制を強化し迅速な業務執行と、それに対する監査・監督機能を充実させることが狙いです。今回は会社法の定める指名委員会等設置会社について見ていきます。
指名委員会等設置会社とは
指名委員会設置会社とは、指名委員会、報酬委員会、監査委員会の3つの委員会を設置する会社をいいます。会社法の平成26年改正以前は委員会設置会社と呼ばれておりましたが、改正により監査等委員会設置会社の制度が新たに新設されたことを受け呼称がこのように変更になりました。この制度の主眼は業務執行を執行役に委ね、取締役会および各委員会によって監査・監督を行うことによって業務執行と監査を分離し、迅速で機動的な業務執行と監査の充実を図ることにあります。取締役会は基本的な経営方針の決定と執行役、各委員の選任を行い業務執行は行いません。この制度は公開会社、非公開会社問わず採用することができます。
機関設計
指名委員会等設置会社となる場合には取締役会と会計監査人を置くことが義務付けられます(327条1項4号、5項)。会計参与の設置は任意です。そして各委員会を構成する委員は取締役の中から取締役会によって選任されます(400条2項)。各委員会の委員はそれぞれ最低3名必要で、そのうち過半数が社外取締役でなくてはなりません(400条1項、3項)。各委員は他の委員を兼任することができ、また執行役をも兼任することができますが例外的に監査委員と執行役を兼ねることはできません。監査する者とされる者が同一では意味がないからです。執行役は取締役から選任することもできますが執行と監督の分離という趣旨からは取締役以外から選ぶことが望ましいでしょう。なお指名委員会等設置会社の取締役、執行役、会計監査人の任期はいずれも1年となっております(332条4項、1項、334条1項、402条7項)。これは定款で伸ばすことも短縮することもできません。
各機関の役割
(1)執行役
執行役は広範な業務執行権限を有しており、株式の譲渡承認や執行役、代表執行役の選任、各委員の選任といった取締役会の専決事項以外の業務執行を行います(418条)。取締役会は執行役の中から代表執行役を選任しなくてはならず、執行役が一人の場合はその者が当然に代表執行役となります(420条1項)。
(2)指名委員会
指名委員会は取締役と会計参与の選任・解任に関する株主総会に提出する議案の内容を決定する権限を有しております(404条1項)。それにを通じて執行役の監査・監督を担っていると言えます。会計監査人に関しては指名委員会ではなく監査委員会が決定することになります。
(3)報酬委員会
報酬委員会は各執行役、取締役、会計参与の「個人別」の報酬を決定する権限を有しております(404条3項)。やはり指名委員会と同様にこの権限を通じて執行役の監査・監督を担っていると言えます。指名委員会等設置会社以外の会社では役員の報酬は株主総会か定款によって総額を定め、個別の割り振りは取締役会等に委ねることができましたが(361条、379条)、指名委員会等設置会社では報酬委員会が個別の報酬額まで決定することになります。
(4)監査委員会
監査委員会は執行役、取締役、会計参与の業務監査を行います(404条2項1号)。監査役会と違って個々の監査役に監査権限が与えられているわけではなく、あくまでも監査委員会という機関に監査権限が与えられております。指名委員会等設置会社の制度上、最も重要な機関であると言えます。
コメント
指名委員会等設置会社に移行する場合の手続としては、まず定款変更を行い指名委員会等設置会社となる旨を定めます。そして同時に監査役、監査役会を設置している場合はこれらを廃止することになります。そして会計監査人を設置していない場合は設置し、会計監査人の選任が必要となります。なおこの時点で従来の取締役、代表取締役は一旦任期満了となり退任することになります。新たに取締役、社外取締役の選任をすることになります。当然再任することは問題ありません。以上を株主総会で決議することになります。取締役会は最低3名の取締役を必要とし、その3名がそれぞれ全ての委員会の委員を兼任し、執行役を1人、会計監査人を1人選任すれば合計5名で最低限の員数を満たすことができます。指名委員会等設置会社はガバナンス体制を強化する機関設計であることから、この制度を採用する企業は内部統制やコンプライアンスを重視した企業と評価されると言えます。複雑な点もありますが、積極的に制度導入を検討することが重要と言えるでしょう。
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