6月から酒類安売り規制強化、改正酒税法について
2017/05/17 コンプライアンス, 法改正, 独占禁止法, その他
はじめに
日経新聞電子版は6月1日から施行される改正酒税法と酒類業組合法によってビール類の店頭価格が軒並み値上がりしている旨報じました。酒類については安売り規制の強化で独禁法の不当廉売よりも厳しい規制のもとに置かれることになります。今回は改正法のポイントと独禁法との違いを見ていきます。
事案の概要
日経新聞によりますとこれまでスーパーで1000円以下で販売もされていたビールの6缶パックが1200円程度にまで上がる可能性があるとのことです。ビールや発泡酒はスーパーでの集客の目玉商品として日常的に安売りがなされてきました。その背景にはメーカーがスーパーや量販店に支払うリベートがありました。メーカーにとっては少しでも多くのビール類を販売してもらい、またスーパーもそれによって安売りが可能となり集客に利用できていたということです。各メーカーでは今年6月1日からの改正法の施行に先立ってリベート支払の削減に乗り出していました。改正法では原価を割る販売がなされた場合、国税庁は行政指導が行えるようになり、最悪酒販免許の取消等につながるようになります。不当な安売りに対してはこれまでも独禁法による規制がなされてきましたが、改正酒税法のそれは独禁法よりも厳格なものとなっております。
改正のポイント
昨年6月3日に公布された改正酒税法と改正酒類業組合法のポイントは大きく分けて酒類の公正な取引基準の策定と酒類販売管理研修の義務化が挙げられます。具体的にはまず①財務大臣による「公正な取引の基準」の策定・公示、②基準を遵守しない業者への行政指導と行政処分、③国税庁による質問検査権の拡充、④公正取引委員会との連携強化となっております。以下それぞれについて見ていきます。
(1)公正な取引の基準
公正な取引の基準とは次の通りです。酒類業者は「正当な理由」なく、酒類を総販売原価を下回る価格で「継続して販売する」取引であって、かつ自己又は他の酒類業者の酒類事業に相当程度の影響を及ぼすおそれがある取引を行ってはならない。総販売原価とは現行法では仕入れ値に運送費を含めたものとなっておりますが、6月1日からはそれに人件費等を加えたものとなります。メーカーからのリベートが削減されればその分仕入れ値が増加することになります。
(2)正当な理由
ここに言う正当な理由とは、国税庁の指針によりますと、季節限定商品でその期間が過ぎたものや、ラベルに汚損がある等の理由で通常の価格で販売することが困難であると認められる場合を言うとしています。期間限定商品の在庫処分や見切り品としての処分、また傷物や半端物といった訳あり商品の処分などは原価割れしていても問題はないということです。
(3)継続して販売
継続して販売するとは、相当期間に渡って繰り返して販売することをいい、例えば、毎週、毎月、週末や特定の日等に限って銘柄等を買えて販売する場合であってもこれに該当するとしています。回数、頻度が低くても繰り返し行えば基準に抵触するということです。1回限りであれば該当しないと言えます。
独禁法との比較
独禁法の不当廉売(2条9項3号)では「供給に要する費用を著しく下回る対価」で継続して供給した場合に該当することになります。具体的には商品を供給しなければ発生しない費用、すなわち「可変的性質を持つ費用」を言います。この可変的性質を持つ費用とは、人件費や不動産の地代といった常に生じる固定費とは違い、製品を供給しなければ発生せず、また供給量に比例して増えるものをいいます。つまり製造原価や仕入れ原価、運送費は該当することになります。人件費等も含める酒税法に比較すると要件は緩やかと言えます。
コメント
酒税は国の税収上重要な位置を占めていることから酒類の公正な取引を図り、適切な税収を確保することが今回の法改正の趣旨となっております。そして一般的にはその販売に要する費用に利潤を加えたものが適正な販売価格であるとしています。その観点から人件費も含めた総販売原価を下回る販売は不当とされるようになりました。しかしビール類を集客材料と割り切って利潤を削ってきた小売店からは厳しすぎる規制との声が上がっております。また人件費を店全体で管理していることから、酒類だけを抜き出して人件費を計算することは困難であり価格設定ができないとの声も上がっております。施行後はスーパーや小売店は、これまでの独禁法や景表法、不正競争防止法に加えて、酒税法上の価格設定にまで注意を要することになります。どの範囲までがどの法律に触れるのかを正確に把握し周知することが重要と言えるでしょう。
関連コンテンツ
新着情報
- 業務効率化
- Mercator® by Citco公式資料ダウンロード
- 解説動画
- 斎藤 誠(三井住友信託銀行株式会社 ガバナンスコンサルティング部 部長(法務管掌))
- 斉藤 航(株式会社ブイキューブ バーチャル株主総会プロダクトマーケティングマネージャー)
- 【オンライン】電子提供制度下の株主総会振返りとバーチャル株主総会の挑戦 ~インタラクティブなバーチャル株主総会とは~
- 終了
- 視聴時間1時間8分
- 業務効率化
- LAWGUE公式資料ダウンロード
- セミナー
- 石黒 浩 氏(大阪大学 基礎工学研究科 システム創成専攻 教授 (栄誉教授))
- 安野 たかひろ 氏(AIエンジニア・起業家・SF作家)
- 稲葉 譲 氏(稲葉総合法律事務所 代表パートナー)
- 藤原 総一郎 氏(長島・大野・常松法律事務所 マネージング・パートナー)
- 上野 元 氏(西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 パートナー)
- 三浦 亮太 氏(三浦法律事務所 法人パートナー)
- 板谷 隆平 弁護士(MNTSQ株式会社 代表取締役/ 長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
- 山口 憲和 氏(三菱電機株式会社 上席執行役員 法務・リスクマネジメント統括部長)
- 塚本 洋樹 氏(株式会社クボタ 法務部長)
- 【12/6まで配信中】MNTSQ Meeting 2024 新時代の法務力 ~社会変化とこれからの事業貢献とは~
- 終了
- 2024/12/06
- 23:59~23:59
- 弁護士
- 大谷 拓己弁護士
- 弁護士法人 咲くやこの花法律事務所
- 〒550-0011
大阪府大阪市西区阿波座1丁目6−1 JMFビル西本町01 9階
- 解説動画
- 加藤 賢弁護士
- 【無料】上場企業・IPO準備企業の会社法務部門・総務部門・経理部門の担当者が知っておきたい金融商品取引法の開示規制の基礎
- 終了
- 視聴時間1時間
- 弁護士
- 髙瀬 政徳弁護士
- オリンピア法律事務所
- 〒460-0002
愛知県名古屋市中区丸の内一丁目17番19号 キリックス丸の内ビル5階
- ニュース
- 新潟市のデイサービス運営法人、賃金150万円不払いで書類送検/労基法の賃金規制について2025.1.15
- NEW
- 新潟市のデイサービス運営法人が職員に計約150万円分の賃金を支払っていなかった疑いがあるとし...
- まとめ
- 改正障害者差別解消法が施行、事業者に合理的配慮の提供義務2024.4.3
- 障害者差別解消法が改正され、4月1日に施行されました。これにより、事業者による障害のある人への...