最高裁が口座解約を有効判断、暴排条項について
2017/09/05 コンプライアンス, 消費者契約法
はじめに
約款に暴排条項を追加した後の既存の暴力団関係者の口座解約は無効であると争われた訴訟で7月11日、最高裁の上告棄却決定により解約が有効であることが確定していたことがわかりました。各都道府県の暴排条例制定により多くの事業者で採用されている暴排条項。今回はその有効性等を見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、指定暴力団「道仁会」(福岡県久留米市)の会長と本部長が1999年~2006年に三井住友銀行とみずほ銀行で普通預金などの口座を開設しました。その後2010年に両行は預金者が反社会的勢力に当たる場合には取引の停止や口座の解約ができるとする暴排条項の規定を新たに設けました。そして2015年に両行はこの規定により2人の口座の解約を行ないました。2人は暴排条項の規定追加前から存在している既存の口座に遡って適用しての解約は無効であるとして、解約無効の確認を求め福岡地裁に提訴していました。
暴排条項とは
2004年6月に広島県で公営住宅の入居資格について暴力団員でないことが規定されたのを皮切りに全国の自治体で暴力団排除条例が制定されていきました。東京都暴力団排除条例18条では「事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には」相手方に暴力団関係者でないことの確認をするよう努めるものとしています(1項)。また契約書には「暴力団関係者であることが判明した場合」には「催告することなく」契約を解除できる旨の条項を設けるよう努めるものとするとしています(2項)。このような条項を暴排条項と言います。いずれも努力義務ではありますが現在多くの事業者でこれらの条項を採用しております。同様の規定はその他の都道府県の暴排条例にも盛り込まれております(大阪府暴力団排除条例14条2項等)。
暴排条項の有効性
このような相手方が暴力団関係者であることを理由とし、一方的に契約を解除できるとする条項は有効なのでしょうか。この点が問題となった事例として、あるホテルが暴力団構成員であることを理由に結婚式および披露宴を行う契約を暴排条項によって解除した例があります。この事例では相手方である暴力団員が、結婚式や披露宴といった反社会性を有さない目的での利用をも制限する暴排条項は合理性を欠き、消費者契約法10条に反し、また信義則にも反し無効であると主張しました。消費者契約法10条は消費者に一方的に不利になる条項は無効としています。この点について裁判所は、暴力団排除の趣旨は「利用者の属性」に基づくものであり、利用目的は関係がなく、また暴力団関係者による襲撃といった危険が一般人に及ぶ可能性は結婚式等でも変わりはないとし、暴排条項の有効性を認めました(大阪地裁平成23年8月31日)。
コメント
本件で問題となっているのは、暴排条項を設ける前から存在する口座に対しても遡って適用し解約(契約解除)することができるのかという点です。一審・福岡地裁は不特定多数の者を相手方とする取引において、「取引約款を社会の変化に応じて変更する必要が生じた場合には、合理的な範囲において変更されることも、契約上当然に予定されている」とし、既存の契約にも個別の合意無くして約款変更の効果が及びうるとしています。そして暴力団の資金源の制限、市民社会の安全と平穏の確保のためには既存口座にも適用しなければ達成できないこと、また店頭ポスターやHPなどで適切に事前周知を行っていたこと、遡及適用の必要性、条項の内容の相当性などを総合的に判断して有効であるとしました。二審・福岡高裁もこれを支持し、最高裁も上告棄却としました。以上のように反社会的勢力排除という公益目的から、本来一般市民相手では違法のおそれがある無催告解除条項や遡及適用も裁判所は有効としています。ただし暴排目的であっても無条件で有効であると考えるのは危険と言えます。暴排条項を制定する際には、条例に基づいた上で、その目的や必要性などを考慮し、事前の周知等を行った上で適切に適用することが重要と言えるでしょう。
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