ノーリツ鋼機とナノキャリアが提携、募集株式発行について
2018/04/17 戦略法務, 会社法
はじめに
ナノキャリアとノーリツ鋼機、ジーンテクノサイエンスは9日、資本業務提携を行うことを発表しました。ナノキャリアが開発するナノメートルカプセルを使用し副作用の少ない抗がん剤の開発に取り組むとされます。今回は意外に複雑な募集株式発行について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ジーンテクノサイエンスはノーリツ鋼機の傘下で核酸医薬品を開発する創薬ベンチャーとのことです。同社の核酸医薬品開発にナノキャリアが開発する10億分の1メートルであるナノカプセルを採用し副作用の少ない抗がん剤開発に乗り出すとのことです。資本提携の内容としてまずナノキャリアがジーンテクノサイエンスの普通株式50万株を約12億円で取得し、ノーリツ鋼機はナノキャリアが第三者割当方式で発行する普通株式150万株を約12億円で取得します。これにより三社協働体制を構築し創薬活動を推進していくとしています。
募集株式発行とは
募集株式発行とは社債の発行や金融機関からの借り入れ、内部留保などと同様に会社の資金調達の1形態と言えます。株式引受人は引き受ける数に応じて出資しそれが会社の資金となります。そして同時に新たに株主が増加するという側面があることから株主同士の利害にも関わってきます。それゆえに募集事項の决定、割当の决定、決定機関の委任など様々な点で会社の形態に応じて規制がなされています。以下具体的に見ていきます。
募集事項の决定
募集株式発行をする際にはまず募集事項の决定が必要です(会社法199条)。そしてこの决定を行う機関は公開会社か非公開会社かによって異なってきます。公開会社の場合は原則取締役会で(201条1項)行ないます。定款で株主総会に移譲することもできます。そして有利発行の場合は株主総会での説明と共に株主総会特別決議を要します(199条2項、309条2項5号)。全株式に譲渡制限を掛けている非公開会社の場合は原則株主総会の特別決議が必要となります(199条2項、309条2項5号)。これは有利発行であると否とを問わず特別決議ということです。特別決議によって取締役または取締役会に募集事項の决定を委任することもできますが(200条1項)が特別決議を要する点は変わりありません。
株主割当の場合
上記决定機関の定めは第三者割当の場合であって株主割当の場合は公開会社では取締役会で、非公開会社の場合であっても定款で定めることにより取締役会で决定することができ、定款の定めが無い場合は株主総会の特別決議となります(202条3項1号~5号)。株主割当は第三者割当と異なり、既存の株主にその持ち株比率に応じて割り当てることから、持株比率が低下するといった不利益や出資額の不公平などが生じません。それゆえに決定機関も取締役会限りでよくなっております。
その他の注意点
募集事項の决定を行ったら払込期日の2週間前までに通知または公告をすることになります(201条3項4項)。また発行する株式が譲渡制限種類株式である場合は種類株主総会の特別決議を取っておく必要があります(199条4項)。これは当該種類株主にとっては非公開会社と同じく持ち株比率に影響があり、また安易と他から買い増すということができないからです。そしてこれらは株主割当の場合には不要となりますが代わりに申込み期日までに株主への申込みを催告する通知が必要となります(202条4項)。
コメント
本件でナノキャリアはノーリツ鋼機に対して第三者割当で普通株式150万株を発行します。ナノキャリアは東証マザーズに上場している公開会社であることから取締役会決議により募集事項の决定が行えます。そして今回の場合は引受先が予め決まっていたことからいわゆる総数引受契約方式での発行と言えます。この場合は公開会社、非公開会社問わず募集事項の通知や公告、申込み催告通知、申込み、割当などの手続きが省略できます。以上のように募集株式発行は公開会社、非公開会社、株主割当、第三者割当で必要な手続きが変わってきます。また発行する株式が譲渡制限株式である場合や他の種類株主に影響がある場合にもそれらの決議を要するなどの場合が生じます。資金調達や資本提携の際には自社の性質に合わせて必要な手続きを正確に行っていくことが重要と言えるでしょう。
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