ベネッセへの賠償請求を棄却、慰謝料請求について
2018/06/22 コンプライアンス, 民法・商法, 個人情報保護法
はじめに
ベネッセコーポレーションの顧客情報流出事件で顧客ら約180人が計1478万円の損害賠償を求めていた訴訟で20日、東京地裁は慰謝料の発生を否定し、請求を棄却しました。不法行為に基づく損害賠償の一種である慰謝料請求。今回は慰謝料について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、2014年6頃、ベネッセに登録した個人情報を使用して他社からダイレクトメールが届くようになり、ベネッセの顧客から情報が流出しているのではないかとの問い合わせが急増し、内部調査の結果約2070万件の情報が漏洩した疑いがあると発表しました。その後警視庁はベネッセのグループ企業であるシンフォームの派遣社員であったシステムエンジニアを逮捕しました。漏洩した顧客情報は複数の名簿業者を経由して通信教育を手がけるジャストシステムに売却されダイレクトメールが送付されていたとのことです。これに対し被害を受けた顧客ら約180名がベネッセと関連会社を相手取り慰謝料等を求める訴えを提起しておりました。
慰謝料とは
民法709条によりますと、「故意又は過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」としています。交通事故、医療過誤、名誉毀損、プライバシー侵害など不法行為の原因は様々ですが、それによる損害の種類は大きく分けて人的損害、物的損害があります。そしていずれの損害も治療費や修理費、休業損失など財産的損害がメインと言えますが、非財産的損害として慰謝料があります。民法710条は「財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」としています。つまり慰謝料とは不法行為によって生じた損害の財産以外の損害を言います。
慰謝料の種類
一般に慰謝料と言うと不倫や浮気、婚約破棄といった婚姻関係に基づくものからセクハラ、性犯罪、暴行傷害、交通事故といった個人と個人の間に生じたトラブルによるものが多いと言えます。しかし医療過誤や報道等による名誉毀損といった組織と個人の間に生じたトラブルによるものも存在します。そして個人情報流出によるプライバシー侵害等は企業に対する慰謝料請求の典型例と言えます。他にも日照権侵害や騒音、大気汚染といった環境侵害も慰謝料請求の原因となり得ます。
慰謝料の算定
通常怪我の治療費や休業利益、物損といった財産的損害はその金額の算定が明確と言えます。しかし精神的損害である慰謝料はその算定に明確な基準は原則として存在しません。例外的に交通事故による場合や自賠責基準、任意保険基準などある程度明確な基準は存在すると言えます。それ以外の場合は裁判官が様々な要素を総合的に考慮して判断していくことになります。具体的には不法行為の態様、動機、原因、被害者の被害の状況、苦痛の程度、年齢、財産的状況、社会的地位、被害者側の過失、その後の加害者側の対応などを考慮要素として算定されます。不法行為の原因によってはさらに特別な要素が加味されることもあります。
コメント
本件で原告側は「営業電話やダイレクトメールを受けたり、詐欺などの犯罪に利用されるリスクがあり、重大な不安感がある」と主張しました。ベネッセ側は「勧誘行為は日常的にありふれたもの」と反論しておりました。東京地裁はベネッセや関連会社の注意義務違反を認定し、不法行為自体は認めましたが慰謝料については「慰謝料が発生するほどの精神的苦痛があるとは認められない」としました。今回流出した個人情報の内容は通信教育を受ける年代の子供が居る家庭の氏名と住所ということになり、個人の趣味や性的趣向といったものよりもプライバシー侵害の程度が高くないことと、ベネッセ側がすでに会員激減による多額の損失を計上していること、被害者への補償費用として200億円を準備し対応に乗り出していたことなどが考慮された可能性もあります。今後控訴審では覆る可能性も十分あると言えます。以上のように慰謝料請求は事案によってかなり流動的で予測しにくい面があります。提訴された際にはどのようなことが考慮要素となるかを留意して反論を組み立てることが重要と言えるでしょう。
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