外観訴訟で「や台ずし」敗訴、不正競争防止法の規制について
2018/09/18 コンプライアンス, 不正競争防止法
はじめに
店舗の外観が酷似しているとして「や台ずし」が「磯丸すし」に対し外観の差止と損害賠償を求めていた訴訟で13日、名古屋地裁は請求を棄却していたことがわかりました。商品表示に該当しないとのことです。今回は不正競争防止法による店舗外観の保護について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、2016年11月、「SFPダイニング」(世田谷)は横浜市内に「磯丸すし」を開店しました。これに対し「や台ずし」を運営する「ヨシックス」(名古屋市)は「磯丸すし」の看板の位置や自体などが「や台ずし」に酷似しているとして名古屋地裁に外観使用の差止と損害賠償を求め提訴していました。SFPダイニング側は周知性や混同の可能性を出店地域の状況を考慮して判断すべきと反論していました。
不正競争防止法による規制
不正競争防止法2条1項1号によりますと、「他人の商品等表示…として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用」する行為を「不正競争」の一つとして禁止しております。そしてこの不正競争によって営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある者は差止を請求することができ(3条1項)、また損害賠償を求めることもできます(4条)。その際不正競争によって利益を得ている場合はその額が損害額と推定されます(5条2項)。また罰則として5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科となることがあります(21条2項1号)。
不正競争の要件
まず「商品等表示」とは「人の業務に係る氏名、称号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」と定義されております(2条1項1号括弧書き)。そして外観などの形態がこの「商品等表示」に該当するための要件は一般的に次のとおりとされております。①当該形態が他の同種商品と識別しうる程度の特徴を有していること(識別性)、②長期間継続して独占的に使用されているか、短期間でも宣伝等により当該形態が特定者の商品であることを示す表示に至っていること(周知性)の両方を満たす場合です。店舗の外観が他のものと比べ顕著な特徴を持っていることと、それを見れば会社名等を認識できるものであることが必要です。
他の法令による保護の可能性
このようないわゆる知的財産権に類する権利の保護としては意匠法や商標法による保護が考えられます。意匠権や商標権を持っている場合は訴訟においても立証は容易となり、不正競争防止法による場合に比べて強力に保護されることになります。しかし現行法上「意匠」とは独立して取引の対象となる「物品」を対象としており店舗は含まれないとされております。それゆえに現在店舗の「外観」を知財として登録することはできないとされます。
コメント
本件で名古屋地裁は「や台ずし」の外観に同業他社と異なる顕著な特徴はなく、そもそも商品表示に当たらないとして棄却しました。不正競争防止法による保護の対象としての「商品等表示」の要件である識別性が否定されたものと考えられます。同種の事例であるコメダ珈琲の例では店舗の外観がかなり特徴的で被告側店舗も外観だけでなく内装や席の配置に至るまで酷似していたという事情があります。周知性が認められるためには同業者と比べて相当な差別化が必要と考えられます。なお現在特許庁は意匠法を改正し店舗の外観も保護の対象となるよう検討しております。これらの点も踏まえ、自社店舗の権利をどのようにすれば模倣から守ることができるかを検討しておくことが重要と言えるでしょう。
関連コンテンツ
新着情報
- まとめ
- 株主総会の手続き まとめ2024.4.18
- どの企業でも毎年事業年度終了後の一定期間内に定時株主総会を招集することが求められております。...
- 弁護士
- 髙瀬 政徳弁護士
- オリンピア法律事務所
- 〒460-0002
愛知県名古屋市中区丸の内一丁目17番19号 キリックス丸の内ビル5階
- 解説動画
- 奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
- 登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
- 潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
- 終了
- 視聴時間1時間27分
- ニュース
- 厚生労働省、企業にカスハラ対策義務化へ2025.1.10
- NEW
- カスタマーハラスメント、通称“カスハラ”。顧客や取引先などから過剰な要求を受ける、不当な言いが...
- 解説動画
- 加藤 賢弁護士
- 【無料】上場企業・IPO準備企業の会社法務部門・総務部門・経理部門の担当者が知っておきたい金融商品取引法の開示規制の基礎
- 終了
- 視聴時間1時間
- 業務効率化
- Legaledge公式資料ダウンロード
- 業務効率化
- ContractS CLM公式資料ダウンロード
- セミナー
- 石黒 浩 氏(大阪大学 基礎工学研究科 システム創成専攻 教授 (栄誉教授))
- 安野 たかひろ 氏(AIエンジニア・起業家・SF作家)
- 稲葉 譲 氏(稲葉総合法律事務所 代表パートナー)
- 藤原 総一郎 氏(長島・大野・常松法律事務所 マネージング・パートナー)
- 上野 元 氏(西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 パートナー)
- 三浦 亮太 氏(三浦法律事務所 法人パートナー)
- 板谷 隆平 弁護士(MNTSQ株式会社 代表取締役/ 長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
- 山口 憲和 氏(三菱電機株式会社 上席執行役員 法務・リスクマネジメント統括部長)
- 塚本 洋樹 氏(株式会社クボタ 法務部長)
- 【12/6まで配信中】MNTSQ Meeting 2024 新時代の法務力 ~社会変化とこれからの事業貢献とは~
- 終了
- 2024/12/06
- 23:59~23:59
- 弁護士
- 目瀬 健太弁護士
- 弁護士法人かなめ
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目1−15 西天満内藤ビル 602号