頭丸刈りで賠償命令、「指導」と「パワハラ」について
2018/09/18 労務法務, 民法・商法, 労働法全般
はじめに
運送会社にトラック運転手として勤務していた男性(40)が社長らに頭を丸刈りにされ、土下座させられたりといったパワハラを受けていたとして会社側に賠償を求めていた訴訟で14日、福岡地裁は1541万円の支払いを命じていたことがわかりました。今回は適切な指導と違法なパワハラの基準について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告男性は2012年から約2年間、福岡県宗像市の運送会社「大島産業」でトラック運転手として勤務していました。男性が仕事から戻る途中に会社に連絡せず温泉に寄ったことなどを理由として頭を丸刈りにし、高圧洗浄機で水を噴射し、ロケット花火を男性に向けて発射したり、数時間にわたって土下座を強要したとされます。そしてそれらが映された画像を社長のブログに掲載していたとのことです。男性側は慰謝料、未払い賃金、労基法違反に基づく付加金含め1669万円の賠償を求め提訴しておりました。
パワハラの定義の類型
パワハラの要件については以前にも取り上げましたが、ここでも簡潔に触れておきます。厚生労働省によりますと、パワハラとは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」とされております。そして典型例として①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個の侵害の6類型が挙げられております。個の侵害とはプライベートな領域に過度に立ち入ることとされます。
指導とパワハラ
職場では上司から部下に対して業務上の指導が行われることは当然にあります。では適法な業務指導と違法なパワハラを分ける基準はどのようになっているでしょうか。一般的には平均的な心理的耐性を持った人を基準に肉体的・精神的苦痛を感じるかを、行為の状況、継続性、会社のパワハラ対策状況などを総合的に見て判断します。そして裁判例では、成績の上がらない従業員に対し、適切な教育的指導するのではなく、単にその結果を示して従業員の能力を否定し、退職を強要した事例で指導を逸脱したパワハラとしました。部下の悩みを汲み取って適切な気付きを与え、業務改善につなげるのではなく、単に非難する行為は無益なだけでなく苦痛を与える有害な行為としています(東京地裁平成27年8月7日)。
パワハラ行為に対する懲戒
では部下に対しパワハラを行った上司を会社として懲戒することはできるのでしょうか。懲戒処分を行うためには原則としてパワハラ行為があった場合には懲戒処分を行う旨を就業規則に規定しておくことが必要です。そして懲戒解雇とする場合は慎重に調査をした上で解雇とすることが客観的に合理的であり、社会通念上相当である場合に限られます。なお上記裁判例では就業規則には規定されていませんでしたが、会社としてパワハラ防止の指導啓発を行い、また従業員のその旨の配布資料などを配っており、またパワハラをしたとして処分を受けた者も会社の幹部であったことから例外的に懲戒処分が有効とされました。
コメント
本件で会社側は従業員同士のレクリエーションでのやり取りの一部を切り取ったものであるとしてパワハラを否定しております。裁判所は会社側の行為を「暴行及び原告の人格権を侵害する行為であることは明らか」としパワハラを認定しました。むりやり髪の毛を切ったり、花火を撃ち込んだり、何時間も土下座させる行為は暴行罪や強要罪にも該当しうる行為でありパワハラを否定することは難しいといえます。今回はその時の様子が詳細にわかる写真がブログに残っており原告の証明が容易な珍しい例となりました。従業員を指導する際には本件のような刑法犯に該当しうるような行為は問題外として、単に成績を示し非難するのではなくどこに問題があるのか、何に悩んでいるのかを汲み取って業務改善を目指すよう指導することを心がけることが重要と言えるでしょう。
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