伊藤忠がTOB実施中、敵対的買収防衛策について
2019/03/01 商事法務, 戦略法務, 会社法
はじめに
現在伊藤忠が実施中のTOBについてデサントは株主に対し応募しないよう呼びかけております。筆頭株主である伊藤忠側は出資比率40%を目指しているとのことです。今回はTOBと敵対的買収防衛策について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、スポーツウェアなどの製造販売を手がける「デサント」の筆頭株主である伊藤忠商事は現在の持ち株比率30%から拒否権が行使できる40%まで引き上げるため現在TOBを実施しております。価格は1株2800円で50%のプレミアを付けた価格となっております。デサントは伊藤忠に事前報告なしにワコールとの提携を発表し伊藤忠から距離を取り始めており、長年経営を支えてきた伊藤忠は不信感を強めているとされます。現在デサント株価はTOB価格の2800円近くにまで急騰しております。
拒否権とは
株主総会での決議は出席株主の議決権の過半数の賛成でもって可決するのが原則ですが(会社法309条1項)、一定の重要事項については3ぶんの2以上の賛成を要します(特別決議 309条2項)。特別決議を要する例としては、株式併合、定款変更、監査役の解任、合併等の組織再編などが挙げられます(同項各号)。いずれも会社の経営方針や組織のあり方などに関する重要事項と言えます。会社の議決権の40%を取得していれば自己以外の株主で3ぶんの2以上の賛成を確保することができず特別決議による可決はできないことになります。これを一般的に拒否権と呼びます。
株式公開買い付けとは
株式公開買い付け(TOB)とは、株式会社の株式を買い取り期間、買い取り株数、買取価格を公告して不特定多数の株主から市場外で買い付ける方法を言います。手続きとしては金商法に基づいて公告を行い(27条の3)、届出書を内閣総理大臣に提出し、株式発行会社は意見表明報告書を提出することになります(27条の10)。市場外での取引は取引所の規制が及ばず、場合によっては他の株主の利益を害することもあることから一定の場合にはTOBによることが求められます。具体的には買い付け後、持株比率が5%を超える場合、または3ぶんの1を超える場合(拒否権)が挙げられます(27条の2第1項1号2号)。
敵対的買収防衛策
(1)ポイズンピル
敵対的買収防衛策の一つにポイズンピルがあります。いわゆる毒薬条項と呼ばれるもので敵対的買収がなされたことを条件に株式が発行される新株予約権の一種です。新株予約権社は市場価格よりも低額で新たに株式を取得し、敵対的買収者の持株比率がこれによって低下するというものです。
(2)ホワイトナイト
ホワイトナイトとは、敵対的買収が仕掛けられた場合に自社に有効的な第三者により高い価格でTOBを実施してもらうことによって敵対的買収に対抗するというものです。自社の危機を救ってくれる「白馬の騎士」という意味が込められております。
(3)クラウンジュエル
クラウンジュエルとは、自社の経済的価値を意図的に下げ買収の意味を失わせて敵対的買収を防ぐという方法を言います。王冠の宝石を外して王冠の価値を下げるという意味です。いわゆる焦土作戦であり、一般的にはその会社の重要な財産や事業、株式などを他社に移転してしまうといった方法が取られます。
(4)ゴールデンパラシュート
敵対的買収がなされると現経営陣は一般的に解任されることになりますが、あらかじめ高額な退職慰労金などを定めておき解任しにくくするという手法をゴールデンパラシュートと言います。買収が成功しても現経営陣を解任するのに多額の費用を要し、会社の財務状態を悪化させることから買収を断念させようというものです。
コメント
本件でデサントはワコールとの事業提携を行ってはいるものの、伊藤忠のTOBに対抗してワコールにホワイトナイトになってもらうといった対抗策は考えていないとしています。今後両社はTOB終了後に対話を行うとしていますが、6月の定時総会までにデサントの企業価値が低下すると判断した場合には臨時株主総会の招集も考えているとのことです。伊藤忠による現経営陣の解任動議の提出の可能性もあると考えられます。以上のように議決権の40%程度を取得すると会社の重要事項について拒否権を取得できることとなります。敵対的買収に対する防衛策も種々のものが存在します。重要な株主と経営等について対立した場合には、まずは対話で率直に意見交換を行うことが重要ですが、敵対的買収がなされるとどのような影響が出るのか、どのような対策ができるのかを予め確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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