イグニス代表取締役が個人資産で広告、利益相反取引とは
2019/07/12 総会対応, 会社法
はじめに
スマホ用アプリの開発を手がけるイグニスは10日、同社の子会社が制作・運営するゲームの宣伝広告を同社の代表取締役である鈴木氏が個人資産で行う旨発表しました。これにより売上が向上した場合、鈴木氏が支出した分を上限として売上の一部を鈴木氏に支払うとのことです。今回は会社法が規制する利益相反取引について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、イグニスは2018年9月期の決算は先行投資などによって赤字となっており、2019年度は黒字化を計画しているもののこれ以上の広告宣伝への投資は難しい状況となっていました。そこで同社代表取締役でCTOの鈴木氏が同社の子会社であるスタジオキングが手がけるスマホ用ゲームの宣伝広告を自費で行う旨申し出たとのことです。広告期間は7月から12月でこれにより売上が向上した場合には、売上の一部を鈴木氏が負担した分を上限として支払うとしています。鈴木氏はイグニスとスタジオキングの代表取締役を兼任しており、今回の取引は形式上、会社法の利益相反に該当することから同社取締役会決議を取ったとされます。
利益相反取引とは
会社法356条1項2号によりますと、取締役が自己または第三者のために会社と取引しようとするときは会社の承認を受けなければならないとしています。たとえば会社が取締役の所有する不動産を市場よりも高値で買い取るといった場合、会社の負担のもとに取締役が利益を得ているという状況になります。こういった取引を利益相反取引と言います。利益相反取引をする場合には取締役会決議、取締役会非設置会社では株主総会の承認が必要です。取締役は会社で強い権限を有していることから、その地位を利用して会社の財産を私物化したりすることを防止することがその趣旨と言えます。取締役の債務について会社が保証人になるといった場合も同様です(同項3号)。
利益相反取引の具体例
利益相反取引の具体例としては、会社と取締役の間で行う売買や贈与、債務免除、利息付きの金銭の貸し借りなどが挙げられます。また判例では会社が取締役に手形を振り出す行為も該当するとしています(最判昭和46年10月13日)。そして注意が必要なのが会社同士の取引です。通常は利益相反に該当しませんが、相手会社の代表取締役と自社の取締役が同一である場合は自社の取締役と取引することと同視されます。相手の会社の株式を自社の取締役が100%保有している場合も同様です。相手会社の平取締役が自社の取締役である場合は該当しません。
利益相反取引の効果
会社の承認を得ていない利益相反取引は会社と取締役との間では無効ですが、善意の第三者との関係では会社は無効を主張できないとされております(最判昭和46年10月13日)。そして利益相反取引により会社に損害が生じた場合は、たとえ承認を得ていたとしても取引をした取締役は会社に賠償責任を負います(423条3項)。またこの場合、承認決議に賛成した取締役も連帯して責任を負いますが無過失であることを立証すれば責任は免れます。なお直接取引を行った取締役本人は無過失を立証しても責任は免れません。
コメント
本件で鈴木氏はイグニスと同社の子会社であるスタジオキングの代表取締役を兼任しております。同社グループが運営するスマホ用ゲームの宣伝広告を同氏が自費で行い、その支出分を限度として売上の一部を同氏に支払うとしています。正確な取引内容は不明ですが、実質的には両社に負担は無いものの、形式的には両者で利益相反に該当する可能性はあるといえます。このようにグループ会社内で役員を兼任している場合には、それらの会社同士での取引は利益相反となり会社の承認が必要となってくる場合があります。小規模な同族会社ほどこのような例は多いと考えられます。しかし一般的にはこの会社法の規制はあまり知られておらず、実際に紛争となってから問題となることも多いと言われております。自社の取締役や、取締役が代表取締役を兼任する他社と取引する場合には利益相反に当たらないかを慎重に判断していくことが重要と言えるでしょう。
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