東京地裁がツイッターに削除命令、ネット情報の削除要件について
2019/10/17 コンプライアンス, 民法・商法
はじめに
過去の逮捕歴に関する投稿の削除をツイッター社に求めていた訴訟で東京地裁は12日、同社に削除を命じていたことがわかりました。
グーグルを巡る最高裁判決にくらべ要件が緩和されているとのことです。
今回は前科や逮捕歴などに関する投稿などの削除について裁判例から見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告側の男性は過去に女湯の脱衣所に侵入したとして建造物侵入の容疑で逮捕され略式命令を受けて罰金を納付したとされます。
それらの事実が掲載された報道機関による記事がツイッターに転載されネット上に拡散・残留しているとのことです。
男性はこれにより就職面接の際に過去の逮捕歴が判明し不採用となったこともあったとされます。
男性はツイッター社に対しこれらの投稿を削除するよう求め東京地裁に提訴しておりました。
ネット上の不利益情報
逮捕歴や処分歴といった事実は通常報道機関等によって公表され、一定期間世間の衆目にさらされることとなります。
そしてそれらの情報がインターネットによりひとたび拡散された場合、完全に削除することは極めて困難となり半永久的にネット上に残ることとなります。
個人の場合は就職や就学、結婚といった場面で、企業の場合は世間の評判や売上などに影響を及ぼすことがありえます。
こういった不利益情報の報道や投稿についても表現・報道の自由が認められておりますが(憲法21条)、一方で公表されない法的利益があることも事実です(プライバシー権)。
以下これらの情報の削除請求について見ていきます。
不利益情報の削除手続き
一般的に逮捕歴や処分歴、悪風評といった投稿や記事は、まず掲載している検索エンジンや掲示板等に削除依頼を行います。
そういったサイトの運営会社では通常独自に削除要件を設けており、それらに該当する場合には任意に削除依頼に応じてもらえます。
応じてもらえない場合は民事訴訟によることとなりますが、通常はそれに先立ち仮処分命令の申立を行うこととなります(民事保全法23条2項)。
なお投稿者や発信者に対し賠償請求を行う場合は別途発信者情報開示手続きによって特定することも可能です。
削除・差止に関する裁判例
(1)前科照会事件
市区町村が弁護士会からの照会に応じて前科等の情報を提供した事例で最高裁は「前科及び犯罪歴は人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」としています(最判昭和56年4月14日)。
法に基づいて裁判所から照会を受けたなどの例外を除いてはみだりに公表されないという権利を認めたものです。
(2)ノンフィクション逆転事件
占領下の沖縄で起きた傷害致死事件を書いたノンフィクション小説で実名で前科を書かれたとして慰謝料請求した事件で最高裁は①その者のその後の生活状況、②事件それ自体の歴史的・社会的意義、③著作物の目的、性格等に照らした実名使用の必要性などから判断して、前科等の事実を公表されない法的利益が優越する場合には不法行為となるとしました(最判平成6年2月8日)。
(3)グーグル削除請求事件
グーグルで検索結果から自分の逮捕歴に関する情報が表示されるとして削除を求めた事件で最高裁は①プライバシーに属する事実の性質・内容、②検索結果によって被る被害の程度、③その者の社会的地位や影響力、④ウェブサイト、記事の目的や意義、⑤社会的状況とその後の変化などを考慮して検索結果を提供する理由と公表されない法的利益を比較し、公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に削除を命じるべきとしました(最決平成29年1月31日)。
コメント
本件で東京地裁は逮捕から期間が経過し、公表の公益性は相当減少しているとし、公表されない法的利益は公表を続ける必要性に優越するとしてツイッターへの投稿削除を命じました。
以上みてきた最高裁判例等での「優越することが明らか」な場合よりも緩やかな基準で削除を認めております。
ツイッターはグーグルのような情報流通の基盤とはなっていないことが理由とされております。
以上のように前科や処分歴、風評などの不利益情報の削除は発信者の表現の自由とも関わってくる問題と言えます。
削除が認められるかは様々な要因を総合的に検討して比較考量されていきます。
グーグルやヤフーなど大手の検索エンジンではその情報アクセス基盤としての重要性から削除は認められにくいと言えます。
これらの点を踏まえて自社のネット上の情報管理を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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