役員責任の企業補償を明記、会社法改正への動き
2019/10/18 商事法務, 会社法
はじめに
法務省が臨時国会に提出する予定の会社法改正案の骨子を日経新聞電子版が5日付けで報じております。
役員が株主代表訴訟などで負う賠償責任を会社が負担する企業補償を明文化するとのことです。
今回は会社役員の賠償責任を軽減する制度について見ていきます。
会社役員の対会社責任
これまで何度も取り上げてきましたが取締役等の会社役員は会社に対し善管注意義務(会社法330条、民法644条)、忠実義務(355条)、競業避止義務(356条1項1号、365条)などを負い、違反した場合には会社に対し賠償責任を負うこととなります(423条任務懈怠責任)。
この責任は本来会社が違反した役員に対して追求していくこととなりますが、役員同士の人間関係などから十分に追求されないことも予想されます。
そこで株主が会社に代わって責任追及していくことも認められております(847条株主代表訴訟)。
会社法上の責任軽減措置
(1)株主総会による一部免除
役員にこのような責任が生じた場合、総株主の同意があれば全額免除することができます(424条)。
しかしこの規定は要件が厳しく、ある程度の規模の会社となればほぼ不可能と言えます。
そこで最低責任限度額を超える部分については株主総会の特別決議によって免除することが認められております(425条1項、309条2項8号)。
なおこの規定による一部免除は当該役員に重過失がある場合には認められておりません。
また最低責任限度額とは各役員に定められた年数分の報酬相当額を言います。
代表取締役・代表執行役で6年分、業務執行取締役等の取締役は4年分、それ以外の役員は2年分となっております。
一部免除があっても最低それだけは支払う必要があるということです。
(2)取締役会による一部免除
上記一部免除は一定の要件のもと取締役会決議(または取締役の過半数の同意)で行うことができます(426条1項)。
まず取締役会による免除を行う旨の定款規定が必要となります。
そして監査役または監査等委員会、指名委員会等のいずれかを設置している必要があります。
そしてやはり重過失がある場合には免除はできず、免除した場合には遅滞なく公告か株主への通知を行います。
ここで総株主の議決権の3%以上の株主から異議が出た場合は免除はできなくなります(同4項)。
(3)責任限定契約
非業務執行取締役等は賠償額を一定の額までとする責任限定契約を会社と締結することができます(427条)。
以前は社外取締役、社外監査役、会計参与、会計監査人に対象が限定されておりましたが、平成26年改正で非業務執行取締役や監査役も認められるようになりました。
ここでもやはり定款規定が必要となり、重過失がある場合は不可となります。
それ以外の責任軽減措置
会社法に規定はありませんが、これら以外で取締役等の賠償責任を軽減する手段として保険と会社補償があります。
前者はいわゆるD&O保険と呼ばれるもので保険会社の保険によって株主代表訴訟等による賠償責任を補填しようというものです。
保険料は役員自身が負担する場合もありますが会社が負担する例が増えております。
そして後者はより直接的に賠償責任を会社が肩代わりするというものです。
これらの措置には従来から会社法上問題が多いとされてきました。
利益供与の禁止や利益相反取引規制に抵触しないか、また上記の責任免除規定の潜脱とならないかというものです。
法務省や経産省ではこれらの措置についても明文化すべきとの動きが出ておりました。
コメント
今回の法務省が提出予定の会社法改正案ではD&O保険と会社補償についての明文化が盛り込まれる見通しとのことです。
すでに会社法で規定されている免除規定に合わせる形で重過失は対象外とし、取締役会や株主総会による決議、そして補償の概要を事業報告で開示するといった内容が見込まれます。
改正が実現した場合には役員等の対会社責任軽減の選択肢が増えることとなります。
これによりこういった制度がすでに法制化されている米国などから役員を招きやすくなると言えます。
ガバナンスの強化が叫ばれる昨今、社外取締役の確保に苦心する企業が増えております。
人材確保を検討する際にはこれらの責任軽減措置を活用していくことが重要と言えるでしょう。
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