関電役員らを告発へ、判例から見る特別背任
2019/11/01 商事法務, 会社法
はじめに
関西電力の役員らが多額の金品を受領していた問題で、関西や福井県の市民団体が同社役員らを告発する方針であることがわかりました。
全国で千人以上の告発人を集め12月にも告発する予定とのことです。今回は会社法の特別背任を判例から見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、関西電力の八木会長や岩根社長などの幹部は福井県大飯郡高浜町の元助役である故森山氏から多額の金品を受け取っていたことが国税局の税務調査で発覚しました。
これを受け同社では第三者委員会を設置するなどして社内調査を改めて行っておりましたが、第三者委員会では強制的に調査する権限はないとして市民約50人が市民団体を結成し、同社役員らを特別背任の容疑で刑事告発する方針を発表しました。
原発反対福井県民会議の事務局長らが発起人となっているとのことです。
会社法の特別背任とは
会社法960条1項によりますと、会社の役員等が「自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、…財産上の損害を加えた」ときは10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております。
基本的には刑法の背任罪(刑法247条)と要件は同じですが、会社役員など一定の地位のある者に限定されております。
回収見込みのない不正融資や蛸配当などが典型例と言われております。
特別背任の成立要件
(1)他人のための事務処理者
背任罪はまず他人のために事務処理を行う者である必要があります。
背任の本質は与えられた事務処理権限の濫用であることから、一定の包括的な事務を任されており、裁量によって単独または共同で決定できる権限が必要です。
(2)図利・加害目的
背任罪の成立には任務に違背していることと財産的加害の認識のほかに自己または第三者の利益を図る目的または委任者(会社)に害を与える目的が必要です。
自己または第三者のためなのか、会社のためなのかが曖昧で併存する場合は、主たる目的がいずれであるかで判断されます(大判大正3年10月16日)。
(3)任務違背行為
任務違背行為とは、誠実な事務処理者としてなすべきものと法的に期待されるところに反する行為と言われております。
その者の地位や権限、事務内容などによって判断されますが、法令や契約、定款に違反するような行為は原則として該当するとされます。
特別背任が認められた事例
(1)不良貸付行為
総合商社の代表取締役が十分な担保を確保することなく、ゴルフ場開発資金などとして共犯者と共謀し、回収の見込みのない貸付を行い会社に約360億円の損害を発生させた行為が特別背任に該当するとされました(最判平成17年10月7日)。
(2)不正融資
銀行の頭取が実質的に破綻状態にある企業に対し、合理的な再建案も提示されないまま無担保で融資したことが銀行の取締役としての任務違背に該当するとして特別背任が認められました(最決平成21年11月9日)。
(3)たこ配当
粉飾決算を行った上で実際には配当すべき利益がないにも関わらず、架空の利益を計上して株主に配当した場合、原則として特別背任に該当するとされております(大判昭和7年9月12日)。
しかし主たる目的が会社の利益を図るものであった場合、たとえば融資を受けるためにしかたなく違法配当をした場合などは否定される場合があります。
この場合別途会社法963条5項2号に当たることとなります。
コメント
本件では多額の金品を渡していたとされる高浜町の元助役がすでに亡くなっており、同氏に対する捜査が難しいことから特別背任での立件は容易ではないと考えられます。
しかし市民団体側は第三者委員会ではできない調査を検察の強制捜査権限を通じて行いたいとしています。
以上のように背任罪は不正融資や不正貸付など直接的に会社の損害のもとで利益を得ようとする行為だけでなく、会社が融資を受けるためといった会社のために行った場合でも該当し得る場合があります。
子会社はグループ会社への貸付や融資を行う場合には十分な担保を確保できているか、回収の見込みはあるのか、また剰余金配当の際には粉飾が行われていないかを、こういった視点からもチェックしておくことが重要と言えるでしょう。
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