東京地裁が国に賠償命令、LGBTと企業の対応について
2019/12/16 労務法務, コンプライアンス, 民法・商法
はじめに
性同一性障害と診断された経産省職員が女性トイレの使用を制限され精神的苦痛を受けたとして国に対し約1650万円の慰謝料と処遇改善を求めていた訴訟で東京地裁は12日、国に132万円の支払いを命じていたことがわかりました。LGBTの職場環境を巡る初の裁判所判断とのことです。今回はLGBTとその対応について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告側の職員は男性として入省後1998年に性同一性障害との診断を受け、2009年から職場と話し合いを重ね、2010年から女性職員として勤務を始めたとのことです。翌2011年には家庭裁判所の許可を受けて戸籍上も女性名に変更し、女性として生活していましたが女性用トイレの使用については他の女性職員との間でトラブルになる可能性があるとして制限されていたとされます。その後人事院に不服を申し立てたものの退けられ、2015年に提訴しておりました。
LGBTとは
LGBTとは、Lesbian、Gay、By-Sexual、Transgenderのことで、同性愛者や両性愛者、生物学的性と自覚する性の不一致などいわゆる性的マイノリティを指します。一説には10%近い人がこのLGBTに該当しているとも言われており近年世界規模で認知されてきております。日本でも芸能人を中心に、自身がLGBTであることを表明している人も増えてきておりますが、周囲からの反応や職場等での不利益な扱いを恐れ、表明できずにいる人がほとんどだと言われております。それではLGBTについて企業はどのように扱うべきなのでしょうか。以下見ていきます。
LGBTの法的扱い
現在LGBTについて直接規定した法律はまだ存在しません。しかし男女雇用機会均等法では事業主に労働者がセクハラにより就業環境が害されないよう体制を整備する義務を課しております(11条1項)。そしてそれを受け厚生労働省告示(平成18年告示615号)では事業者に対し、①事業主のセクハラに対する方針等の明確化とその周知・啓蒙、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるセクハラに対する迅速な対応、④相談者のプライバシー保護等の措置や不利益取り扱い防止のための周知・啓蒙を義務付けております。そしてその後の改定でLGBTに関する差別的な言動やセクハラも同様に含まれるとしています。つまりLGBTを理由とするハラスメントもセクハラに含まれるという扱いとなりました。
LGBTに関する裁判例
LGBTが問題となったケースとして次のような事例があります。当初男性として会社に雇用されていた従業員が性同一性障害であると診断され、会社側に女性の服装で勤務すること、女性トイレを使用すること、女性更衣室を使用することを認めるよう求めましたが拒否されました。その後実際に女性の服装での出勤と会社側からの禁止命令と自宅待機命令を繰り返し、懲戒解雇となったというものです。この事例で裁判所は、突然の女性の服装での出勤は同僚社員等にショックや違和感、嫌悪感を抱いかせたであろうことは認めつつも、性同一性障害が医学的に認められつつある概念であり相応の対応と配慮を求めることに相応の理由があること、また職場での周知と理解を広げることにより違和感なども軽減していく余地があるとして、懲戒解雇を違法・無効としました(東京地裁平成14年6月20日)。
コメント
本件で国側は女性用トイレの使用について、他の女性職員間でトラブルが生じる可能性があるとして、勤務しているフロアから2階以上離れたトイレを使用するよう制限をしたことについては裁量の範囲内であるとしていました。東京地裁は「個人が自認する性別に即した社会生活を送ることは重要な法的利益」とし、「自認する性別に対応するトイレの使用を制限されること」は重要な法的利益の制約に当たるとし国の違法性を認めました。LGBTに即した就業環境を得ることを認めた初の判決と言えます。以上のようにLGBTに関してはセクハラと同様に法的な保護が広がってきております。諸外国とは異なり、まだまだ日本ではLGBTへの認識や理解が進んでいないのが現状で、早急な対応は簡単ではないものと思われます。しかし今回の判決を受け、今後日本でもLGBTへの法整備や訴訟が増加していくことも予想されます。まずは従業員間でのLGBTに対する理解を広めていくことが重要と言えるでしょう。
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