ソフトバンクが5000億円分の自社株買い、自己株式取得について
2020/08/14 商事法務, 戦略法務, 会社法, IT
はじめに
ソフトバンクGは大規模な自社株買いを行っており、現在約8200万株、総額5000億円分の自社株を取得していたことがわかりました。財務強化の一貫とされます。今回は株式会社の自己株式取得について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ソフトバンクグループは今年3月、負債削減と自己株式の取得に向けて約4.5兆円分の資産を売却し資金化する旨発表しました。そして最大で2兆円分の自己株式を取得するとし、その方針に基づいて取締役会決議により数次にわたって自己株式取得を実施しております。同社株価は自己株式取得発表から上昇に転じ、現在6000円前後で推移しております。
自己株式の取得
自己株式の取得とは、株式会社が自社の株式を自ら取得することを言います。自己株式の取得は実質的に出資の払い戻しであり、会社資本への影響や会社支配の公正、また株主平等を害することなどから従来は原則として禁止されておりました。しかし平成13年商法改正以後一定の手続規制のもとに解禁されております。とはいえ現行会社法のもとでも155条に列挙されている場合に限定されております。具体的には譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合、株主との合意による取得の場合、取得条項や取得請求権付株式の取得、単元未満株式の買取、組織再編による取得など13項目となっております。
株主との合意による取得
会社が能動的に自己株式を取得する方法として株主との合意による場合があります。これには全株主を対象としたものと特定の株主のみを対象としたものに分けられます。全株主を対象とする場合は株主総会の普通決議によって取得数や取得価格、期間を決定します(156条)。そしてそれに基づき取締役または取締役会が実施することとなります。これに対して特定の株主を対象とする場合は株主総会の特別決議による必要があり、また対象とならなかった株主も自己を対象に追加するよう請求することが可能です(160条3項)。なお市場取引や公開買付による場合は定款で取締役会決議によっても決定できる旨定めることができます(165条3項)。
自己株式の取得と財源規制
自己株式の取得は実質出資の払い戻しであることから会社財産の減少を招き、会社債権者を害する可能性があります。そこで原則として分配可能額の範囲に限定されることとなります。しかし例外的に財源規制が適用されない場面がいくつか存在します。まず単元未満株式の買取の場合です。この場合は1単元に満たない株式の株主の投下資本回収を保障する必要があるからです。それ以外では合併や吸収分割、事業譲り受けで承継する財産に自己株式が含まれている場合です。この場合は承継財産から自己株式を除外することが困難であり、また別途債権者異議手続も行われることから財源規制には服さないこととなっております。
コメント
本件でソフトバンクグループは上場会社であり市場取引によって自己株式を取得することから取締役会決議で今回の自社株買いを決定しております。資産売却によって資金調達を行っているとはいえ他に類を見ない規模も自己株式取得となっております。自己株式の取得は市場に溢れた自社株を整理して株価を高める効果や合併などの組織再編に先立ち、対価として利用することもできます。また敵対的買収に対抗するために市場に出回る自己株式を自社で確保してしまうことも可能です。以上のように自己株式の取得は財源規制と手続規制の範囲で原則自由に行うことができます。それぞれ必要な手続きを把握して自社の状況に合わせて機動的に利用していくことが重要と言えるでしょう。
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