エディオン元社員と転職先に賠償命令、営業秘密と機密保持について
2020/10/05 コンプライアンス, 不正競争防止法, 小売
はじめに
家電量販大手エディオン(大阪市)の元従業員が営業秘密を転職先に漏らしたとして、同社が元従業員と転職先である上新電機(大阪市)に対し約50億円の支払いを求めていた訴訟で1日、大阪地裁は計約1800万円の支払いを命じていたことがわかりました。今回は不正競争防止法の営業秘密とその扱いについて見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、2015年1月、エディオンの元従業員は競合他社である上新電機に転職するに際し、同社の営業秘密データ約200件を抜き出し上新電機に提供した疑いで逮捕起訴されました。同元従業員はエディオン在職中は課長職に就いており転職の際の手土産とするため退職前に約200件のデータを自己のPCに転送し、転職後も遠隔操作ソフトを使用して営業秘密データ4件を上新電機のPCに転送したとされます。同社では退職者のIDとパスワードを退職後90日間利用可能にしていたとのことです。元従業員は不正競争防止法違反で既に有罪判決を受けております。
不正競争防止法の営業秘密保護
不正競争防止法では営業秘密に関して次のような行為が不正競争行為の一種として禁止されております(2条1項各号)。まず窃取、詐取、脅迫など不正な手段によって営業秘密を取得すること、また不正手段によって取得した営業秘密を使用したり開示することが禁止されます。不正に取得されたという事実につき悪意または重過失で営業秘密を取得し、または使用・開示する行為も禁止されております。また営業秘密を取得した後に不正な手段が介在することを知った場合に重過失がある場合も同様です。適法に取得した営業秘密を不正の利益を得、または損害を与える目的で使用・開示することも禁止されております。違反した場合には10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(21条1項1号~7号)。
営業秘密とは
それでは不正競争防止法が保護する営業秘密とはどのようなものでしょうか。2条6項によりますと、「秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と言うとされております。一般に①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3要件と呼ばれております。客観的に秘密として管理され、事業活動に有用な内容であって、いまだ一般に公開されていない情報であるということです。会社の書類などで、部外秘といった記載のあるものなどが典型例と言えますがアクセス権限が制限されたデータなども該当します。
秘密保持条項と営業秘密
上記のとおり営業秘密の要件を満たした場合は不正競争防止法によって保護されることとなります。経産省の営業秘密管理指針によりますと、それ以外の情報でも秘密保持条項を設けるなどした場合には民法その他の法令で法的に保護される得るとしております。そしてこの秘密保持条項に関し裁判例では被用者の退職後に一定の制約を課すものであることから、その内容が合理的で過度に制約するものでない限り有効としております。しかし秘密として保護される範囲は基本的には上記不正競争防止法における3要件を満たす場合としております(東京地裁平成29年10月25日)。つまり経産省の指針ではかなり広く秘密は保護され得るとしているのに対し、裁判所はやや慎重で限定的な態度を採っているものと思われます。
コメント
本件でエディオンの元従業員が漏洩させた情報は近年家電量販店の参入が活発になっているリフォーム関連事業に関するものだったとされております。転職先の上新電機でも同事業への新規参入を決めていた最中であり、同従業員が先行者であるエディオンからもたらす営業秘密は相当な価値があったものと思われます。大阪地裁は上新電機と元従業員に計約1800万円の支払いを命じました。以上のように企業にとって重要な営業秘密は不正競争防止法によって保護されております。しかし近年国内外の企業により同様の手口で重要な機密が盗み出されるといった事例が増加しております。不正競争防止法の罰則も強化すべきとの声も上がっております。社内での秘密の扱いと従業員への周知を強化しつつ、秘密保持条項も過度な制約となっていないかを見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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