最高裁で言論NPOが敗訴、名誉毀損の要件について
2021/03/15 コンプライアンス, 民法・商法, 刑事法, その他
はじめに
週刊文春の記事で名誉を毀損されたとして、民間の非営利団体「言論NPO」とその理事長が文藝春秋に損害賠償を求めていた訴訟で最高裁は10日、上告を棄却していたことがわかりました。記事を事実と認めた高裁判決が確定することとなります。今回は名誉毀損とその要件について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、2017年7月27日発行の週刊文春に「言論NPO理事長に7000万円”横領”疑惑」と題する記事が掲載されました。言論NPOと工藤理事長は名誉が傷つけられたとして文藝春秋に対し計7700万円の損害賠償などを求め提訴しておりました。文藝春秋側は記事はあくまで理事長に横領の疑惑があると論評したものと反論していたとされます。一審東京地裁は同理事長が横領したことを強く疑わせる事実が存在するとし、真実と認められず名誉毀損に当たるとして110万円の支払いを命じました。二審東京高裁は一転、記事は重要な部分で真実と認められるとし請求を棄却しました。
名誉毀損とは
刑法230条1項によりますと、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」とされております。「公然と」とは不特定多数に対してという意味で、特定の少数人に対してであったとしてもそれにより不特定多数に伝播する可能性があれば公然性が認められます。「事実を摘示」とは、単に「馬鹿」などの悪口ではなく、「A社は粉飾をしている」「違法に産廃を捨てている」といった具体的事実を示すことを言います。そして「名誉を毀損」とは社会的評価を低下させることを言います。自尊心を傷つけるといっただけでは成立しません。
名誉毀損とならない場合
上で述べた名誉毀損に当たる行為を行っても、例外的に名誉毀損とならない場合が存在します。公共の利害に関する事実であり、公益を図る目的であって、真実であることが証明された場合には特定として違法性が否定されることとなります(230条の2)。公共の利害に関する事実とは、政治家や公務員、大企業や大規模宗教団体など社会的に重要な事実を言います。公益を図る目的とは、私怨や私情ではなく専ら社会公益のためという動機を言います。そして摘示された事実が真実である証明が必要となります。
意見論評と名誉毀損
意見論評とは、「横領」や「粉飾」といった証拠等により証明しうる事実ではなく、単に善悪や優劣といった物事の価値に関する批評を言います。例えば既に粉飾決算で起訴されている会社について、それを前提として「最悪な会社である」といった評価をする場合が挙げられます。このような場合、前提となっている事実が真実であり、表現も論評としての域を逸脱したものでなければ違法性が否定されるとされております(最判平成9年9月9日)。
コメント
本件で東京高裁は、言論NPOから工藤理事長に対し業務委託料として月額40万円超が支払われていたと指摘し、記事は重要な部分で真実であるとして請求を棄却しており、最高裁も高裁判決を指示し上告棄却としました。文藝春秋側が主張していた意見論評性は否定されたものの、公共性や公益性、そして真実性が認められ違法性が否定されたものと考えられます。以上のように刑法230条に規定される名誉毀損行為が行われた場合、刑事だけでなく民事でも同じ要件で争われることとなります。原告側も被告側も主張・立証すべきことは多岐にわたります。どのような場合に名誉毀損となるか、逆にどのような場合に違法性が否定されるかを正確把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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