サンデン債権者が630億円放棄、事業再生ADRとは
2021/05/12 事業再生・倒産, 民法・商法, その他
はじめに
経営再建中の自動車用空調大手のサンデンホールディングスは7日、都内での債権者会議で生産拠点見直しなどを含む再建策について承認を得た旨発表しました。銀行団は630億円の債権放棄に応じたとのことです。今回は事業再生ADRについて見ていきます。
事案の概要
日経新聞の報道によりますと、サンデンHDは欧州の排ガス規制強化によるガソリン車向け空調部品の不振と新型コロナウイルスの影響により資金繰りが悪化し、昨年6月に事業再生ADRの利用申請を行っていたとされます。同社は2019年4月に発表した中期経営計画を一部踏襲した、電気自動車向け空調部品の拡販や生産拠点の再編を含む再建計画を債権者会議に提出し承認を得たとのことです。みずほ銀行など20行が債権977億円のうち64%に及ぶ630億円を放棄し、また現経営陣の取締役8人は退任するとされます。
事業再生ADRとは
事業再生ADRとは、裁判外紛争解決手続(ADR)の一種で、平成19年産業活力再生特別措置法の改正により創設され、平成25年産業競争力強化法に引き継がれた制度です。民事再生法や会社更生法などの法的手続きによらずに、経営が困難な企業の再建を図ることを目的としております。法務大臣の認証と経産大臣の認定を受けた特定認証紛争解決事業者である民間団体が債務者と債権者との間の合意をあっせんしていくこととなります。
事業再生ADRの手続きの流れ
事業再生ADR制度の利用を希望する場合、債務者が特定認証紛争解決事業者に申請します。申請が受理されますと、認証紛争解決事業者が債務者と連名で債権者に対し、債権回収や担保権設定、破産手続、再生手続きなどの申し立てを行わないよう一時停止の通知を行います。その後原則として2週間以内に債権者会議が開催され、事業再生計画案の概要が説明されます。以降、債務者の事業再生計画案が公正かつ妥当で経済的合理性を有するかについての認証紛争解決事業者による陳述を経て決議に入ります。ここで債権者全員が同意すれば私的整理成立となり、逆に1人でも同意しなければ法的整理に移行することとなります。
事業再生ADRのメリット
事業再生ADRにはいくつかのメリットがあるとされます。まず法的整理と違い手続きの実施を公表する必要がなく、対象となる債権者も金融機関等のみとなるため取引先に迷惑をかけることなく事業を継続できます。上場企業は株式市場での上場を維持でき、つなぎ資金を借り入れることも可能です。また法的整理に比して手続きが迅速で、3ヶ月程度での終了も見込めます。そして中立公正な認証紛争解決事業者が主催することから法的整理に準じた公平性、透明性のある紛争解決が期待できます。さらに債務免除に伴う税制上の優遇措置も用意されております。
コメント
本件でサンデンHGは空調部品の中国や欧州での生産体制を再編し、今年12月末までに中国家電大手海信集団傘下のハイセンス・ホーム・アプライアンス・グループを引受先とする第三者割当増資により約214億円を調達するとの再建計画を立てております。債権者側も同意し事業再建ADRが成立したこととなります。以上のように経営再建には民事再生や会社更生といった法的整理の他に事業再生ADRが存在します。金融機関とのみ債務整理をすることができ、取引先には影響を与えないといったメリットがあります。またこれ以外にも再生支援スキームや特定調停などの私的整理手続も用意されております。債務超過に陥った際には自社の再建の可能性や債務の額、取引先等への影響なども考慮して、最も適切な手続きを選択していくことが重要と言えるでしょう。
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