東京商事に開始命令、会社法の特別清算手続について
2021/05/13 事業再生・倒産, 会社法, その他
はじめに
ホテルやレジャー施設を運営する東京商事(東京)が先月22日、東京地裁から特別清算開始命令を受けていたことがわかりました。負債総額は約1004億8300万円で令和最大とのことです。今回は会社法の特別清算手続きについて見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、東京商事は「ホテルグリーンプラザ」や遊園地「軽井沢おもちゃ王国」などを運営し、ピークの1991年には売上高は約125億円であったとされます。しかし一部のホテル運営をグループ会社に移管したことなどから2005年には売上が約39億円に減少し、また不動産への過大な投資や不良債権処理などで債務超過に転落していたとのことです。同社は2018年に会社分割により新設された日本商事に事業譲渡し、2020年12月までに解散しております。
特別清算とは
会社法の特別清算とは、解散し精算に入った株式会社につき、債務超過の疑いがある場合に裁判所の命令により開始される精算手続きを言います。破産手続きと同様に法的倒産手続きと言えますが管財人ではなく清算人がそのまま主体となって手続きを進めるなど破産手続きよりも柔軟・迅速でコストも抑えられ、穏当な精算方法と言えます。対象となるのは株式会社のみで、解散し精算手続きに入っている必要があります(会社法510条)。債務超過の疑いがある場合や、債権者が多数におよぶなど精算遂行に著しい支障を来す事情がある場合に利用することとなります。
特別清算の手続き
特別清算手続きの大まかな流れは、開始申立て、開始決定、負債額の確定、協定または和解案の策定、債権者集会、協定認可決定、協定等に基づく弁済、終結決定、清算結了登記となります。特別清算は債権者、清算人、監査役、株主が申し立てることができます(511条1項)。債務超過の疑いがある場合には精算人は申し立てる必要が生じます(同2項)。開始決定が出たら原則として個別執行や相殺が禁止となり債権を確定します。財産調査を行い、財産目録を作成して債権者への説明や協定のための債権者集会を開催することができます。協定や和解が成立したら裁判所により認可・許可がなされ、反対した債権者も拘束されます(571条1項)。以後それら協定や和解に基づいて弁済していくこととなります。
破産手続きとの違い
特別清算と破産手続きの違いは上でも触れたように管財人の有無が一番大きい点と言えます。財産管理権が取締役や清算人から破産管財人に移る破産と異なり、特別清算では清算人が裁判所の監督の下に手続きを継続します。破産手続きでは詐害的行為や偏頗弁済など一定の範囲で否認権が認められておりますが特別清算では否認権は存在しません。債権者への弁済も破産手続きでは債権額に応じて配当されますが、特別清算では協定や和解に基づいて、より柔軟に行うことができます。逆に破産では不要であった株主の同意や債権者の同意が必要となる場合があります。まず特別清算では前提として解散しておく必要がありますが、そのためには株主総会特別決議を要します(309条2項11号、471条)。また弁済方法についての協定でも債権者の同意を要します(567条)。
コメント
本件で東京商事は4月22日に東京地裁により特別清算開始決定を受けました。債権者が個別に取り立てたり相殺することができなくなり、財産確定、協定案や和解案の策定が進められるものと思われます。同社ではすでに新設分割で新会社を設立し、事業譲渡を行っていることから採算部門の継続を前提とする再建型の手続きと言えます。以上のように特別清算は破産よりも柔軟で原則として債権者との合意に基づく穏便な手続きと言えます。そのため本件のように不採算部門だけ切り離して精算し、事業再生を目指すことも可能です。また破産よりも会社のイメージ低下を回避しやすいと言えます。自社の現状に最も適切な手続きを選択していくことが重要と言えるでしょう。
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