厚生労働省、今年度の内定取消数を発表(コロナ影響)
2021/10/27 労務法務, コンプライアンス, 民法・商法, 労働法全般
はじめに
厚生労働省は令和3年3月に大学・高等学校を卒業し就職予定であった者のうち、内定取消しとなったり入職時期が延長となった者の状況を取りまとめた結果を発表しました。内定取消しとなった者の数は136人・37事業所、入職時期の延長となった者は157人・14事業所でした。昨年度、内定取消しが211人・82事業所、入職時期延長が1310人・93事業所だったことを考えますと、いずれも減少傾向にはありますが、コロナ禍前の内定取消し者数が30~80名前後であったことを踏まえると、依然として高い数字となっております。
事案の概要
市況が不安定で、会社経営の浮沈が見通しづらい中で、新たな人材を確保することは会社として大きなリスクを伴います。それゆえ、今回のコロナ禍に限らず、不況時には内定取消数が増える傾向があります。理論上、一度内定を出した場合でも内定を取消すこと自体は可能ですが、一定の条件を満たす必要があります。今回はどのような条件の下内定の取消しができるのかを見ていきたいと思います。
内定とは
かつて「内定の事実をもって労働契約の成立と言えるか」という議論がありましたが、昭和54年7月20日の最高裁判所の判例にて、採用内定通知の他に労働契約を締結するための特段の意思表示が予定されていない状況下で、内定通知→内定受諾+内定者からの誓約書の提出という一連のプロセスを経た場合には、「始期付解約権留保付労働契約」が成立するとされました。ここでいう解約権留保付とは、入社予定日までに労働力提供のために必要な要件を内定者が満たせなくなった場合に会社側に労働契約を解約できる権利があるということを意味しますが、一方で、内定取消しをすることは法律上の「解雇」にあたるため、内定取消しに合理的理由が認められない限り解雇無効となります。
この点に関し、上述の昭和54年7月20日の最高裁判所の判例では、「内定当時知ることができないか、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できるものに限られる」旨、言及しています。
内定取消しが有効な場合
内定者都合の内定取消
内定者が重大な虚偽申告を行っていたり内定者が反社会的行為を犯したりした場合は内定取消しが認められる可能性が高いと言えます。実際、昭和48年10月29日 大阪高判では、公法上の法人である日本電信電話公社が、非合法活動を誇示し武力闘争を標榜する団体に所属して公安条例違反の現行犯で逮捕された内定者(最終的には起訴猶予)の内定取消を認める判決を出しています。もっとも、このケースでは、内定取消を行ったのが、公共性の高い≒政治的中立が求められる公社であった点も重視されており、こうした事情がない通常の民間企業においては、内定取消が認められるための「反社会的行為」のハードルは相対的に上がる可能性があります。
ちなみに、内定者の妊娠を理由とした内定取消は合理性を欠き、無効となる可能性が高いと言えます。男女雇用機会均等法の第9条では、「事業主が妊娠を退職理由として予定することの禁止(第1項)」、「妊娠を理由とした解雇その他不利益な取扱いの禁止(第3項)」などを定めています。
会社都合の内定取消
一方で会社都合の場合は、整理解雇の必要性があり、整理解雇のために努力を尽くし、解雇の対象者選択について客観的・合理的な基準を作成し適正にこれを運用し、使用者が整理解雇を行うにあたって、当該労働者・労働組合と誠実かつ十分に協議しなければならない(東京高判昭54.10.29 労民集30-5-1002)という要件を充足しなければ内定取消しが無効となります。
コメント
先を見通しづらいコロナ禍において、人件費等の負担を回避すべく、内定取消が頭をかすめる企業も相当数あると思います。しかし、会社の都合で内定取消しをしなければならない場合には、かなり厳格な要件を充足しなければ、内定取消しが無効となります。その場合、損害賠償金の支払いや紛争対応の人的コストなど、予期しない負担を背負うことになりかねません。
法務担当者としては、事前相談なく、経営層が内定取消を決め、後対応に追われる事態だけは回避したいところです。社内コンプライアンス教育等を通じて、内定取消しが大きな法的問題を含むことをあらかじめ人事担当者や経営陣に共有することが重要になります。
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