神戸地裁が関西スーパーの統合差止仮処分認める、差止手続きについて
2021/11/24 商事法務, 総会対応, 訴訟対応, 会社法
はじめに
関西スーパーとエイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングの経営統合を巡り、オーケーが差し止めの仮処分申立を行っていた件で神戸地裁は22日、申立を認める決定を出していたことがわかりました。決議方法に疑義があるとのことです。今回は前回も取り上げた差止請求と仮処分について見ていきます。
事案の概要
関西スーパーの経営統合を巡り、かねてからH2Oとオーケーで争われておりましたが、10月29日の関西スーパーの臨時株主総会でH2Oとの経営統合案が可決承認されておりました。しかしこの臨時総会での承認決議について、最初の集計では賛成65.71%と特別決議に必要な3分の2に届いておらず、その後株主の1人が白紙で投票したものを事後賛成として扱い、それにより賛成66.68%で可決したという経緯があるとされます。この1票に関して株主は予め賛成の投票を行っていたことから当日は白紙で投票していたとのことです。これに対しオーケーは決議方法に問題があるとして神戸地裁に差止の仮処分を申し立てておりました。
M&Aと差止請求
合併や株式交換などのM&Aの手続きなどに問題がある場合は差止請求を行うことができます(会社法784条の2、796条の2等)。手続きに法令や定款違反がある場合で、それにより当事会社の株主が不利益を受けるおそれがあるときに差止請求を申し立てることができるとされております。なお株主総会での承認決議が省略される略式組織再編の場合は法令・定款違反だけでなく組織再編の条件が著しく不当である場合でも請求できることとなっております(784条の2第2号等)。なお差止請求がなされる場合は通常は民事保全法に基づく仮処分申したてがなされることが一般的です。
差止事由
合併や株式交換などのM&Aの差止請求の原因となる事由は、上記のように法令または定款違反とされております。具体的には、合併や株式交換契約の内容に違法な点がある場合、備置き書類等に不備がある場合、債権者異議手続きに不備がある場合、株主総会での承認決議に瑕疵がある場合、株式や新株予約権の買取請求手続きに不備がある場合、消滅会社の株主等に交付される対価の割当に瑕疵がある場合、要件を満たしていない簡易・略式手続きを行った場合、そして独禁法など会社法以外の法令に抵触する場合などが挙げられます。なお承認決議が省略できる略式手続きの場合は、対価等が会社の財産状況などに照らして著しく不当である場合も差止請求が可能です。
仮処分の手続き
仮処分申し立ては本案である差止請求を行う第一審裁判所に書面で申し立てることとなります(民事保全法12条)。この仮処分申し立てが却下された場合は原告側は2週間以内に即時抗告をすることができます(19条1項)。申し立てが認められ、仮処分が出された場合は被告側は保全異議または保全取り消しの申し立てが可能です(26条、37条)。保全異議は仮処分の必要性が無い、または被保全権利が無いといった理由での申し立てです。保全取り消しは原告が仮処分申し立てをしたにもかかわらず、本案の提訴をしない場合や、事後事情の変化で仮処分が必要なくなった場合に申し立てが可能です(37条~40条)。
コメント
本件で神戸地裁は、関西スーパーの株主総会での投票用紙について、未記入の場合は「棄権」と考えるべきとし、また用紙にはない事情を考慮して投票後に白紙の投票を賛成として取り扱った点は決議方法に法令違反または著しく不公正である可能性があるとし差止の仮処分を認めました。通常株主が事前に書面または電子投票を行っていても、株主総会の当日に出席すれば事前の投票は無効と考えられております。そして当日に白紙票と投じた場合は決議に棄権したものと裁判所も判断したものと考えられます。以上のようにM&Aはかなり複雑な手続きが累積することとなり、そこに法令や定款違反の疑いがある場合は差止や無効訴訟が提起されることがあります。特に株主総会での手続きで争われることが多いと言えます。当事会社や株主間で争いが生じている場合は、総会検査役の選任を行っておくなど事前の対策を用意しておくことが重要と言えるでしょう。
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