QB HOUSE、理髪師の契約形態が問題視
2022/04/01 契約法務, 労務法務, 民法・商法, 労働法全般
はじめに
安価、そして10分間という超短時間でカットを仕上げてくれるということで、忙しいビジネスパーソンから人気の高いQB HOUSE。そんなQBハウスで働く理美容師の契約形態が問題視されています。
問題の所在
この問題は3月16日、個人加盟制の労働組合である日本労働評議会が「ヘアカット専門店QB HOUSEの業務請負契約を濫用した使用者責任の回避を許さない」として記者会見を開いたことにより話題になりました。日本労働評議会によりますと、同社では一部店舗(全店舗の約28%)にて、本社が理美容師を雇用するのではなく、本社と業務委託契約を結ぶ個人事業主(QB HOUSE内で“エリアマネージャー”と呼称)が理美容師を雇用する形を取っているとのことです。それにより、直接の契約関係にない本社は、理美容師に対する雇用責任を免れる一方、理美容師の中には、本社と契約したと誤信した者もいたそうです。また、エリアマネージャーと雇用契約を締結している店舗の中には、社会保険未加入・残業代不払い・有給取得不可などの深刻な労務問題が生じている店舗も一部あるとのことです。
※ちなみに、理美容業を営む個人経営の事業所においては、法人経営の事業所と異なり、現状、社会保険の強制加入義務はありません。
キュービーネットホールディングス株式会社の説明
一連の日本労働評議会の指摘に対し、「QB HOUSE」を運営するキュービーネットホールディングス株式会社は、3月22日に本件に関する説明文書を発表しています。
■雇用主の誤認について
こちらについては、2014年以前に、日本労働評議会が指摘したような、「雇用主を本社と誤認させるような採用態様」があったことを認めつつ、当該態様の把握後は業務受託者と協議し、雇い入れ時の文書のみならず、採用過程を通じて、雇い主が誰であるかを明示するなどしており、是正済とのことです。
■労務管理逃れとの指摘について
「事実上、理美容師を雇用しているにも関わらず、労務管理逃れをしている」との指摘に対しては、本社とエリアマネージャー(個人事業主)の関係が、委託業務の内容・店舗数の増減・営業時間等を自由協議により定める“対等な契約関係”であることを強調しつつ、理美容師の雇用については、エリアマネージャーが完全に独立して、自身の責任と裁量により行っているとしています。実際、採用者数や個々の候補者の採否、賃金額をはじめとする雇用条件、勤務シフト、勤務時間管理、業務遂行に関する指導などの一切の事項は、各エリアマネージャーが独自の判断で行っているとのことです。
加えて、本社との業務委託契約の終了を申し出て来たエリアマネージャーに雇用される理美容師については、希望者は原則として直接雇用に切り替えていて、このような形で雇用を切り替えた理美容師の数は約1000名にのぼるとし、この契約モデルに労務管理逃れの意図はないと主張しています。
【外部リンク】当社子会社が締結する業務委託契約に関するインターネット上の指摘について
コメント
上述のキュービーネットホールディングス株式会社の発表によりますと、今回問題となったような、業務受託者が理美容師を雇用するタイプの店舗(業務委託店舗)は、QB HOUSE全体として減少傾向にあるそうです。理由として、理美容師不足の環境下での理美容師確保の難しさが挙げられています。その意味では、雇用条件の悪い事業所が自然淘汰される自浄作用が正常に機能しているとも言えます。
しかし、今回に限らず、依然として悪労働条件下で理美容師を働かせる理美容室は後を絶ちません。理美容師の多くは、ただでさえ、一日中立ちっぱなし、スタイリング剤やシャンプーで手が荒れるなど過酷な労働環境下にあるにも関わらず、労働集約型ゆえに労働時間が長い傾向にあります。さらに、平均年収も日本の平均年収と比較して低い傾向にあり、理美容師として年収を上げようと考えたときに、「自営で安く理美容師を雇用し、規模を拡大する」以外に道筋が見出しづらいという問題があります。この辺りが、一定の自浄作用が機能しているにも関わらず、悪労働条件の理美容室がなくならない原因と考えられます。その意味では、シンプルではありますが、理美容師業界全体として、サービス単価を上げて行くことが重要になりそうです。
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