知床観光船の海難事故、全国一律の法律に問題点も
2022/05/09 コンプライアンス, 危機管理
はじめに
2022年4月23日、北海道知床で観光船(KAZUⅠ)が海難事故を起こし、多くの乗客が遭難しました。このニュースは連日報道され、今も乗客の捜索が続いています。この事件は会社の経営体質や人材面で数多くの批判がなされており、関係者の家宅捜索が行われています。一方で、船舶に関する法律にも問題点が指摘されています。そこで今回は、KAZUⅠの事故の詳細を振り返るとともに、船舶安全法についても内容を確認し、事故との関連について見ていきたいと思います。
事件の経緯
有限会社知床遊覧船は、運航する船(KAZUⅠ)の海難事故を起こし、多くの被害者を出す結果となりました。事件当日は現地で波浪注意報が出されており、他の観光会社は船の出航を見送ってましたが、知床遊覧船は、波浪注意報を把握しながらも、あらかじめ予定していた条件付き運航として船を出していたとのことです。また、出港当日は知床遊覧船の無線設備が故障していたことも後に明らかになりましたが、近隣の会社や携帯電話によって緊急の連絡は可能だと判断し、出航停止はしませんでした。これについて知床遊覧船社長は記者会見で「収益のために無理に出港させたということはない」としながらも、「安全管理が行き届いていなかった」と口にしています。
日本経済新聞|知床観光船遭難、全国一律の法律に盲点 寒冷対策が急務
船舶安全法とは
今回の事故では寒冷の海に転落した乗客の救助の難しさについても語られてきましたが、これは船の救命設備を全国一律で義務付ける船舶安全法の問題点とも言えます。船舶安全法は海上の危険から乗客の安全を確するために必要な設備などを定めた法律で、1933年に制定されて以降、デジタル化などに対応するために何度か改正されてきました。一方で、肝心の救命設備に関しては大きな改正はなされず、時代や地域性に関わらず一律の基準が設定されてきました。しかし、この安全規則を疑問視する声も上がっています。
船舶安全法の問題点とは
船舶安全法によると、KAZUⅠは「小型船舶」に該当する比較的小型の船と定義されます。同法の安全規則では、小型船舶では膨らませてテントのような形状にして海上を移動できる「救命いかだ」か、浮力のある四角いマット状の「救命浮器」のいずれかの整備が必要です。この点、KAZUⅠでは「救命浮器」が装備されていました。当日の事故現場では水温が低く、救命いかだがなければ体温の低下で生存は難しくなることから、特に寒冷な条件では救命いかだを必須とすべきとする専門家の主張も聞こえてきます。このように、今回の事故は有限会社知床遊覧船の経営や安全管理、人事登用上の問題等が指摘されていますが、船舶安全法の地域性を考慮しない一律の安全規則にも問題がありそうです。救命浮器は1つ10万円程度で購入できるのに対し、救命いかだは1つ50万円ほどと高額なため、すべての船に整備を義務付けることは現実的ではないでしょう。運航するルートや時期などに合わせて、救命いかだなどの安全整備の条件を設ける必要がありそうです。
コメント
事件を受けて、知床斜里町観光協会は文書を公開しています。文書によると、今回の事件をきっかけに地域の船舶事業者と協議し、運行体制、安全面の見直し、事故発生時の早期対応策なども合わせて信頼回復に努め
るとしています。斜里町は観光が盛んな街であり、今回の事件は多くの観光客の足を遠のかせる懸念もあります。真相の解明とともに、船舶事業者のより一層の安全管理が求められています。
知床斜里町観光協会|知床遊覧船(KAZUⅠ)の海難事故について
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