積水ハウス、土地取引詐欺事件にまつわる株主代表訴訟の判決結果を公表
2022/05/31 訴訟対応, 会社法, 刑事法
はじめに
積水ハウス株式会社は2022年5月20日、「株主代表訴訟の判決に関するお知らせ」と題した文書を公開し、同社の個人株主1名が同社の当時の代表取締役2名を被告として損害賠償を請求した株主代表訴訟に関する判決結果と内容を公表しました。この訴訟は2018年に提起された訴訟で、分譲マンション用地取引での詐欺事件による任務懈怠という理由で提訴されたものです。本記事では、訴訟の背景を振り返るとともに、今回公表された判決結果について詳しく見ていきます。
事件の背景
積水ハウスは2018年9月11日、同社個人株主1名(以下、原告)から当時の同社代表取締役(以下、被告)に対しての付訴訟告知書を受領しました。積水ハウスは2017年4月、東京都千代田区の旅館跡地に関し、売買契約を締結しました。しかし、実際は当該土地の売却を持ちかけて来たのは、土地の所有者になりすました地面師で、これが詐欺被害となり約55億円の特別損失を計上することになりました。契約締結に先立ち、当該土地の真の所有者が積水ハウスに対し取引を警告する通知書を送付していましたが、積水ハウス側は「妨害工作」と判断し、かえって社内の決済を前倒しして進めました。背景に、地面師から持ちかけられた土地売買価格が相場の7割ほどと、かなりの好条件だったためと言われています。原告は、積水ハウスが被った分譲マンション用地取引での詐欺事件による55億5,900万円の損害に関して被告に、
・業務執行上の判断の誤り
・取締役・使用人への監視監督責任を怠った任務懈怠
・内部統制システム構築義務違反
・被害回復についての任務懈怠
があったとして、善管注意義務・忠実義務違反を理由に、積水ハウスに対し、上記同額の損害賠償及び遅延損害金の支払いを求めました。積水ハウスは原告から同社監査役宛に、代表取締役に対する取締役の責任追及等の訴えに関する提訴請求書を受領していましたが、同社の全監査役は代表取締役に対して訴訟を提起しないことを決定しています。この結果、原告から本件訴訟が提起されました。
株主代表訴訟とは
株主代表訴訟とは、会社経営陣の意思決定等が会社に対して損害を与える要因となったにも関わらず、会社側がその責任を追及しない場合、株主が会社に代わってその会社役員の責任を追及して訴訟を提起できる制度のことです。会社法847条により、株主代表訴訟の対象となるのは、①取締役等の責任、②違法な利益供与がされた場合の利益供与を受けた者からの利益の返還、③不公正価額での株式・新株予約権引受けの場合の出資者からの差額支払等に限定されています。
裁判の結果
本件に関し、大阪地方裁判所は2022年5月20日、原告の請求をいずれも棄却すること、補助参加によって生じた費用を含め訴訟費用は原告の負担とすることとする判決を言い渡しました。谷村裁判長は、被告が真の所有者からの警告通知書が届いた事実を認識していた一方で、部下からは「十分な本人確認が行われたこと」を示す情報をもたらされていた事実を指摘したうえで、契約を中止することなく早急な決済了承したのは「著しく不合理とは言えない」とし、同社のリスク管理体制の不備についても否定しています。積水ハウス側は妥当な判断である旨コメントしていますが、原告側は控訴する方針とのことです。
コメント
今回の地面師による詐欺事件は、品川区の一等地にある約600坪の老舗旅館跡という魅力的な不動産物件に、偽造パスポートや印鑑証明書、旅館の女将のなりすまし役・その手配役などを絡めたかなり巧妙なものだったと言われています。今回の株主代表訴訟は、会社の元代表取締役に対して提起されたものでしたが、結果は原告の請求が棄却されるかたちで終わりました。今回の判決のベースにあるとされる「経営判断の原則」では、取締役の判断に責任を追及できるか否かは、①経営判断を下すまでの情報収集・分析に不注意な点がなかったか、②判断内容自体に不合理な点がなかったかという2点が、善管注意義務違反の判断の中心要素とされています。原告は控訴して取締役の責任を追及する方針と報道されており、今後も経営側の責任を焦点に訴訟が続きそうです。
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