不動産会社社長に懲役1年6ヶ月求刑、インサーダーリスクについて
2022/05/31 戦略法務, コンプライアンス, 金融商品取引法
はじめに
新型コロナウイルス治療薬に関する未公開情報を基にインサイダー取引を行ったとして不動産会社「内田建設」と社長が金商法違反で起訴されていた事件の初公判が30日開かれていたことがわかりました。被告は起訴内容を認めているとのことです。今回はインサイダー取引とそのリスクについて見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、医療ベンチャー「テラ」(東京)の株式148万株を保有していた内田建設の社長(以下、「被告」)は、2020年5月にテラの提携企業がコロナ治療薬の臨床試験に成功したとの内部情報を得ると、さらに2万株を買い付けて、株価が上昇した後に売却したとされます。また被告は内部情報を知人に伝えた後、証拠となるメールを削除するよう指示していたとのことです。検察側は動機が短絡的で利欲的であるとして懲役1年6月、罰金100万円、法人に対して罰金100万円、追徴金約2500万円を求刑し即日結審しております。判決7月4日に出される見通しです。
インサイダー取引とは
インサイダー取引とは、上場会社の会社関係者等が、株価に影響を与えうる重要事実を知り、公表前に株取引を行って利益を得る行為を言います(金商法166条)。違反した場合には5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科となっており(197条の2 13号)、法人に対しても両罰規定として5億円以下の罰金が規定され(207条)、違法に得られた財産の没収や追徴がなされる場合もあります。ここでの没収額は実際の利益額ではなく売付代金額となっております。また課徴金納付命令の対象ともなっております(175条)。課徴金は実際の買付または売付代金額と公表後2週間の最高値または最安値の差額とされております。罰則だけでなく利益の剥奪も盛り込まれた非常に厳しい規制となっております。
インサイダー取引の要件
インサイダー取引規制の対象となる「会社関係者」とは、当該会社および子会社の会社役員、使用人、従業員、帳簿を閲覧できる株主、権限を有する監督官庁の職員等、会社と取引している取引先や公認会計士、弁護士などとされます。これら会社関係者でなくなった後も1年間は該当することとなり、会社関係者から重要事実の伝達を受けた者も含まれます(166条1項~3項)。「重要事実」とは、当該会社および子会社の情報で、株価に影響を与えるものを言います。具体的には新株発行、TOB、組織再編、業務提携、製品開発の成功、業績予想の大幅修正、巨額の融資、災害による損害、行政処分など多岐にわたります。「公表」とは会社代表者または受任者が2以上の報道機関に対して公開してから12時間が経過したとき、または金融商品取引所のインターネットサイトに掲載された場合が該当します。有価証券届出書や有価証券報告書に記載され公開された場合も同様です。
証券取引等監視委員会とは
証券取引等監視委員会とは、内閣府設置法54条と金融庁設置法6条に基づいて設置されている、金融庁に属する審議会の一つです。内閣総理大臣と金融庁長官から委任された権限によって証券取引や金融先物取引市場での取引調査等を行い、公正な市場取引を確保しております。証券取引等監視委員会は金商法や犯罪収益移転防止法などに基づき、臨検や捜索、差し押さえなどの強制調査や、質問、検査、領置などの任意調査などを行う権限が与えられております。また同委員会はすべての証券取引履歴を閲覧することができ、TOBや合併など株価に大きな影響を与える情報が公表されたら、その前後で該当会社の株式の取引をしている人を監視対象としてくまなく調査しているとされております。特に多額の利益を得た取引者は重点的に調査がなされます。
コメント
本件で医療ベンチャー「テラ」の関連会社の役員から新型コロナウイルス治療薬に関する重要事実の伝達を受けた内田建設の社長である被告は、その事実の公表前に株式を買い付けたとされます。これらの事実はテラ社の株価に影響を与えるものであり、会社関係者からの伝達を受けて公表前に取引を行ったことからインサイダー取引に該当する可能性が高いものと言えます。以上のようにインサイダー取引規制を受ける対象者や重要事実はかなり広いものとなっております。またその監視を行っている証券取引等監視委員会の権限も広範で強力なものとなっております。軽い気持ちで自社の予定や情報を知人に伝えた場合でも違法となる場合があります。どのような場合にインサイダー取引となるのか、またどのように調査され発覚するのかを今一度社内で周知し、予防していくことが重要と言えるでしょう。
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