川崎重工業、子会社における不適切行為に関する文書を公開
2022/06/15 コンプライアンス
はじめに
川崎重工業株式会社(本社:滋賀県草津市青地町)は、2022年6月7日、昨年8月に完全子会社した川重冷熱工業株式会社において、製造・販売していた吸収式冷凍機の検査に関して、一部、不適切行為などが発覚したとして、詳細を文書で公開しました。川重冷熱工業の製品は、主にビルなどの空調システム用として販売されていたものになります。本記事では、川崎重工業の不適切行為の経緯や全容について見ていきましょう。
不適切行為の内容
不適切行為の内容は、主に3つです。
1.検査成績書類への実測していないデータの記載
一つ目は、検査成績書類への実測していないデータの記載であり、1984年から2022年までの間、合計1950件発生していたとされています。冷房能力100%で顧客から出荷前試運転を求められた場合、「初回生産品の性能試験で冷房能力100%のデータを確認済みであり、出荷前試運転は品質を冷房能力90%程度の試運転で確認し、冷房能力100%での試験は不要であること」と説明すべきところですが、今回は冷房能力100%での試運転結果であるようにデータを作成して検査成績書類に記載していたことがわかっています。
2.立会検査時の計測器の不適切な操作
もう1つは、立会検査時の計測器の不適切な操作であり、1つ目の不正行為と同じく1984年から2022年まで、計334件発生しています。1つ目の検査成績書類の提出に加え、顧客が立会って検査する場合、冷房能力100%の運転を行っていないにもかかわらず、計測器を調整して冷房能力100%の運転をしているように見せかけ、事実とは異なる説明をしていたものです。
3.カタログ・仕様書の不適切な記載
3つ目は、カタログ・仕様書の不適切な記載であり、1986年から2009年まで行われました。これは、販売していた一部の製品について、冷房能力およびCOPがJIS規格の性能公差を満たしていないにもかかわらず、カタログおよび仕様書にJIS規格に準拠する旨を記載して販売していたものです。
不適切行為発覚の背景
2021年8月末に川重冷熱から顧客に提出した検査成績書類と社内試験結果が異なることにアフターサービス部門の担当者が気づき、上司にその内容を報告したことから行為が発覚しています。これを受けて川重冷熱は、過去5年間、計約1,500台の検査成績書類提出状況を調査し、立会検査時の計測器の不適切な操作を確認するとともに、現在販売している機種性能が、JIS規格の性能公差内であることを検証することになりました。さらに、約9,000台の稼働中の機種を調査し、是正措置と説明対応方針の検討等を行っています。そして、2022年3月、川重冷熱の社内調査の過程において、さらにカタログ・仕様書の不適切な記載が判明し、親会社である川崎重工の所掌事業部門(エネルギーソリューション&マリンカンパニー)に報告が行われています。その後、川崎重工から川重冷熱に詳細な追加調査の要求があり、状況を把握すべくヒアリング調査等を実施しています。
なお、川崎重工業の発表によりますと、一連の不適切行為は、吸収式冷凍機の安全性に影響するものではないとのことです。また、現在販売中の機種の性能についても、表示された性能に対してJIS規格で定められた“許容される差の範囲内の性能”を有していることを確認済とのことでした。
コメント
川崎重工業は不適切行為の詳細な事実調査や原因究明、是正措置の妥当性と検証、再発防止への提言をおこなうため、弁護士で構成される特別調査委員会を設置、不適切行為の対象となる製品を納入した顧客に対しては、川重冷熱から説明をおこなうとともに、個別に相談・協議して真摯に対応するとしています。また、吸収式冷凍機の性能・品質を担保する方法についても、①原則として初回生産品の性能試験と各量産機の出荷前試運転の組み合わせによることを説明する、②検査成績書類には実測値のみを記載する、③冷房能力の立会試験では実際の計測値を試験結果とすることなど、すでに対応を実施済みとのことです。6月7日には、川重冷熱工業の代表取締役は「不適切行為を認識していたにも関わらず是正しなかった」として解任されています。グループ全体へのコンプライアンス徹底の難しさを表す事例といえます。
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