文化シヤッターが日本IBMとの損害賠償請求訴訟の判決を公表
2022/06/24 契約法務, 民法・商法
はじめに
アルミ建材大手である文化シヤッター株式会社は、2017年11月27日、販売管理システムの開発委託先として契約していた日本アイ・ビー・エム株式会社に対し、開発を頓挫させたことを理由として損害賠償請求訴訟を東京地方裁判所に提起し、係争を続けていました。その判決が2022年6月17日に言い渡され、判決内容について文化シヤッターが公表しています。結果は、日本アイ・ビー・エムに対して支払いが言い渡されることとなりましたが、文化シヤッターの主張が全面的に認められたわけではありません。そこで本記事では、訴訟の内容について詳しく見ていきましょう。
訴訟の背景
文化シヤッターは2015年に既存の販売管理システムを新しいものとするためのプロジェクトを開始しました。その際、文化シヤッターは日本アイ・ビー・エムに対し、提案依頼書の作成を委託し、これに基づき複数ITベンダーから提案をもらった上で、最終的に日本アイ・ビー・エムをシステム構築の委託先として選定しています。
もともと、両社はアジャイル開発(計画→設計→実装→テストという一連の開発工程を機能単位の小さいサイクルで繰り返す開発手法)とウォータフォール開発(上流工程から下流にそって順々に開発を進める開発手法)を併用してシステムを構築することとしていましたが、プロジェクトの途中からウォータフォール開発のみの構築とする方針に転換していました。ところが、プロジェクトは当初の予定より数カ月遅延し、構築に要する期間を4か月ほど延期しています。その後、ユーザー受け入れテストを始めましたが、多数の不具合が発見されたため、文化シヤッター側はバグの修正と並行しながら、システムの早期稼働を優先する開発手法を提案しました。しかし、日本アイ・ビー・エム側は文化シヤッターの提案を受け入れず、要件定義のやり直しからはじめる開発手法を提案します。この手法による場合、2年4カ月の期間を要するとされていました。そのため、文化シヤッターは、「日本アイ・ビー・エムは実質的に従来のプロジェクトの成果を破棄している」とし、既に支払った開発委託費約22億円を含む27億4,475万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴することになりました。
訴訟の経過と判決内容
文化シヤッターは日本アイ・ビー・エムとのシステム開発継続を断念したことで、2017年度第2四半期決算(2017年7月~9月)で17億4,500万円の特別損失を計上しています。その一方で、被告である日本アイ・ビー・エムも2018年3月に、追加作業の未払い金12億1,000万円の支払いを求めて反訴しています。日本アイ・ビー・エム側は、文化シヤッターの経営陣とユーザー部門が意思統一をしないままプロジェクトを進めたことが、今回のプロジェクトが頓挫に至った原因だと主張しました。この反訴により、両社が委託契約を巡って全面的に争う格好となりました。
これに対し、東京地方裁判所は、文化シヤッターの請求の一部を認め、日本アイ・ビー・エムの反訴は棄却しました。具体的には、
① 被告である日本アイ・ビー・エム株式会社は、原告文化シヤッターに対し、19億8,331万6,016円と2017年12月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払うこと
② 原告のその余の本訴請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却すること
③ 訴訟費用については、本訴反訴を通じてこれを4分の1を原告負担とし、その余を被告のふたんとすること
などが言い渡されています。
コメント
本件に関し、日本アイ・ビー・エムは、システムに多数の不具合が発生した理由として、「要件定義や設計の遅延により、開発期間が圧縮され、テスト検証が不足した」と説明しているといいます。システム開発は、開発着手時点で実体のないものを、多数のレイヤー・多数の当事者が関わり制作するため、納期の見通しが立てにくく、また、納期が遅延した場合の責任の所在が見えにくい取引です。その意味で、仮に契約書の条項を入念に準備していたとしても、紛争発生の予防が難しい取引とも言えます。システム開発の案件が来た場合には、法務として、この種の取引でどのようなトラブルが生じがちなのかを現場と共有し、運用としてトラブルが起きづらい体制(社内の意思決定フロー、ベンダーへの必要事項の事前共有等)を現場で確立するよう助言することも重要になりそうです。
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