実習生違法残業で板金加工会社を書類送検、技能実習制度について
2022/06/21 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般
はじめに
京都市の部品製造会社が外国人技能実習生に違法な残業をさせていたとして、京都下労働基準監督署が14日、同社と工場長を書類送検していたことがわかりました。残業時間は月106時間に及んでいたとのことです。今回は外国人技能実習制度について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、京都市南区の機械部品製造会社の工場長(45)は昨年2月から3月にかけて、ベトナム人技能実習生5人に「36協定」等に違反する違法な残業は休日出勤をさせていた疑いが持たれているとされます。5人は本社に隣接する工場で板金の加工などを担当し、月あたりの残業が106時間にのぼるケースもあったとのことです。労基署はこれまでも同社に対しては複数回指導を行ってきたものの、改善されなかったため、悪質性が高いとして書類送検に踏み切ったとされます。会社側は認否については明らかにしておりません。
外国人技能実習制度とは
技能実習制度は、国際貢献のために開発途上国等の外国人を日本で一定期間に限り受け入れて、OJTを通じて技能を移転する制度とされております。技能実習生は入国直後の講習期間以外は受入企業との雇用関係の下で技能を習得していくとされます。昨年末時点で技能実習生の数は約28万人にのぼり、国別では多い順にベトナム、中国、インドネシア、フィリピンとなっております。職種別では最も多いのが建設関係で、食品製造関係、機械・金属関係の順となっております。技能実習制度は1993年から開始され、その後入管難民法改正、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習適正化法)の制定を経て現在の制度に至っております。
技能実習制度の流れ
技能実習生の受入れは現地に支店等を持つ企業が単独で行う場合と、非営利の監理団体が受入れ、傘下の企業等で実施する場合の二通りに分けられます。前者の場合は受入企業の現地支店等が候補生の査証申請等を行い日本に入国させることとなります。後者の場合は、現地の送出機関が応募してきた候補生を選考し査証申請等を行い、日本に入国後は日本国内の監理団体が受入申込をした受入企業に送り出すこととなります。いずれの場合も外国人技能実習機構の認定や監査・監督を受けることとなります。受け入れられた技能実習生はまず受入企業または監理団体で原則2ヶ月間の講習を受けてから実習に入ります。この時点から1年間の在留資格は「技能実習1号」となります。1年目が終了すると実技試験と学科試験を受験し2年目に入ります。この時点から在留資格が「技能実習2号」となります。3年目終了時に実技試験を受験し4年目に入った時点で在留資格は「技能実習3号」となります。5年目終了時に最後の実技試験を受験し技能実習は終了となります。
技能実習制度の問題点
技能実習制度は発足当時から問題点が多く指摘され、特に当初はあくまで研修扱いとされていたことから労働関係法令が適用されず、賃金や時間外労働等に関するトラブルが頻発していたとされます。その後相次ぐ法改正により新たに「技能実習」の在留資格が創設され、入国直後の講習後は企業との雇用契約に基づく労働者として扱われることとなりました。また平成28年に制定された技能実習適正化法により監理団体の許可制、実習実施企業の届出制、技能実習計画の認定制が導入され、認可法人である外国人技能実習機構が設立され、監理団体等の監査・監督に当たることとなり、通報・申告窓口が整備され、人権侵害行為等には罰則が設けられました。しかしその後もパスポートの取り上げや強制貯金、時間外労働、違約金等による身柄拘束、暴行や性暴力などの事件が多発し、日弁連による人権侵害を指摘する勧告や国連人権理事会による制度を廃止すべきとの報告がなされております。
コメント
本件で京都市内の板金加工会社はベトナム人技能実習生5人に対し、36協定等で定めた時間を超える時間外労働を行わせていた疑いがもたれております。最も多い例で月の時間外労働時間が106時間であったとされ、労働基準監督署により労基法違反の疑いで書類送検されました。以上のように外国人技能実習生は現在では研修生ではなく、日本人従業員と同様に労働者扱いとなります。そのため労基法等の労働関係法令が適用されます。また暴行、脅迫、監禁等は当然として、違約金や強制貯金、パスポートの取り上げや私生活の不当制限に対しても6月以下の懲役、30万円以下の罰金が規定されております。外国人技能実習生を受け入れている場合、または受け入れを検討している場合は以上の点を踏まえて、待遇や対応を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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