世紀東急工業、公取委による課徴金納付命令の取消訴訟の判決に対し上告
2022/07/07 コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法
はじめに
世紀東急工業は2022年6月27日、「訴訟の判決に対する上告等のお知らせ」という文書を公表し、公正取引委員会から出された課徴金納付命令の一部の取消を求めた訴訟の控訴審判決を不服として、最高裁判所に上告することを明らかにしました。この裁判は、2019年に同社に公正取引委員会の課徴金納付命令が下されたことを契機に、2020年より東京地方裁判所でスタートしています。本記事では、課徴金命令および取消請求の経緯をおさらいするとともに、同社の直近の動向についても確認します。
公正取引委員会による課徴金納付命令
世紀東急工業(東京都港区三田)は1950年に創業した東証プライム上場中の建設会社で、「道路舗装工事」「土木工事」「環境・景観整備」「合材製造販売」の4つの領域を軸に事業展開しています。同社は全国で販売するアスファルト合材の販売価格の決定に関して、独占禁止法違反の疑いがあるとされ、2017年2月28日に公正取引委員会による立入検査を受けました。同社は同委員会の調査に全面的に協力したものの、2019年7月30日、公正取引委員会から独占禁止法に基づく排除措置命令と課徴金納付命令を受けることになりました。具体的な排除措置命令の内容としては、アスファルト合材の販売価格決定において、独占禁止法第3条の「不当な取引制限の禁止」に違反する行為が見られたとして、違反行為が消滅していることを確認し、今後違反行為が行われないよう必要な措置を講じることが命じられています。また、課徴金として、2020年3月2日までに28億9,781万円を納付することが命じられました。
違反行為の概要
令和元年7月30日に行われた公正取引委員会の発表によると、世紀東急工業は、前田道路、大成ロテック、鹿島道路、大林道路、ガイアート、東亜道路工業、日本道路及びNIPPOの8社(以下、「9社」)と共に、かねてから、アスファルト合材の原材料の価格動向や各社のアスファルト合材の販売価格の引上げ時期や引上げ幅等について情報交換を行っていたといいます。その後、遅くとも平成23年3月頃以降、特定販売価格の引上げを共同で行っていく旨の合意の下に、アスファルト合材の販売分野の競争を実質的に制限する各種施策を打っていたとされています。本件では最終的に、公正取引委員会より8社に課徴金納付命令が出され、その総額は398億9804万円に及んでいます。
アスファルト合材の製造販売業者に対する排除措置命令及び課徴金納付命令について
取消訴訟とは
取消訴訟は、行政庁の公権力の行使に関して不服がある場合に訴訟するものです。今回の公正取引委員会の課徴金納付命令はまさに行政庁による公権力の行使にあたり、この権力行使に不服がある場合、法律の定めにより取消訴訟を提起することができます。取消訴訟は行政事件訴訟法に規定されており、処分の取消しの訴えは同法3条2項で処分の取り消しを求める訴訟と明記されています。一方で、同法3条3項では、裁決自体の取消しの訴える訴訟が規定されています。この訴訟では審査請求、異議申立て、その他の不服申立てや行為の取消しを求める訴訟であり、処分の違法性を理由に取消しを求めることはできないとされています。今回の訴訟は、処分の取り消しを求めた訴訟に該当します。
なお、取消訴訟はいつでも誰でも提起できるものではなく、一定の要件を満たしていなければなりません。特に、行政事件訴訟法の3条2項における「処分」に該当するのか(処分性)、当該処分や裁決の取消しを求める法律上の利益を有する者であるか(原告適格)、処分や裁決を取り消すことで適切に紛争を解決することが可能か(訴えの利益)などが重要視されています。
上告までの経緯
世紀東急工業は当初この命令を「厳粛に受け止める」としていましたが、課徴金納付命令において課徴金算定の対象とされた売上高が、同社と公正取引委員会で一部見解に相違が見られたことから、2020年1月に公正取引委員会を被告とし、課徴金納付命令の一部(10億6364万円)に対する取消訴訟を提起しました。残りの18億3417万円については争わなかった格好になりますが、本件に関しては、2020年12月18日に、世紀東急工業の株主であるINTERTRUST TRUSTEES (CAYMAN) LIMITED SOLELY IN ITS CAPACITY AS TRUSTEE OF JAPAN-UPと投資一任契約を締結している株式会社ストラテジックキャピタルが、当時の代表取締役を含む4名に対して、株主代表訴訟を提起し、善管注意義務違反に基づく損害賠償請求を行っています。これに対し、東京地方裁判所は2022年3月28日、株式会社ストラテジックキャピタルの請求を認め、代表取締役会長に17億3227万円、元取締役に15億7942万円と18億3417万円、現取締役に15億7942万円の損害賠償請求が認容されています。まさに、独禁法違反が生じた際のインパクトの大きさを思い知らされる事例となっています。
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