京都新聞HDが大株主を提訴、会社法の利益供与とは
2022/07/12 総会対応, コンプライアンス, 会社法
はじめに
京都新聞社を傘下に置く京都新聞ホールディングスが大株主である白石浩子氏(81)に支払った相談役報酬などの返還を求め京都地裁に提訴していたことがわかりました。過去34年間で総額19億円余りにのぼるのとことです。今回は会社法が規制する利益供与について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、京都新聞社では同社の大株主である白石浩子氏が相談役に就任した1987年から同氏に対して多額の相談役報酬をしはらっていたとされます。同氏は京都新聞社の株式を約30%保有しており、第三者委員会の調査によりますと支払われていた報酬は年間で平均約4800万円以上とされ、昨年2月までの34年間で総額19億円余りにのぼるとのことです。同氏は相談役に就任後も年数回程度自宅で役員から経営状態の聞き取りを行うのみで出社は全くしていなかったとされます。京都新聞HDはこれらの相談役報酬は会社法に違反する違法な利益供与に当たるとして、その一部である約5億円の返還を求め京都地裁に提訴しました。
利益供与とは
これまでも取り上げてきましたが、ここでも簡単におさらいしていきます。会社法120条1項では、「株式会社は、何人に対しても、株主の権利…の行使に関し、財産上の利益の供与…をしてはならない」とされております。株主に金品を提供して株主総会で賛成するよう依頼するといったことが典型例と言えます。このような行為は利益供与と呼ばれ会社法で禁止されており、違反した場合には利益供与をした取締役等に対し3年以下の懲役または300万円以下の罰金が規定されております(970条1項)。いわゆる総会屋対策に主眼が置かれていると言えますが、会社財産の浪費を防止して会社経営の健全化を図ることが趣旨と言われております。以下具体的に利益供与の要件を見ていきます。
利益供与の要件
利益供与は「何人に対しても」と規定されているように、利益を供与する相手は株主に限定されません。株主以外の者に提供することを要求されると言った場合や、そもそも株主とならないことを条件として金品が要求されると言った場合もあり得るからです。そして「株主の権利の行使に関し」の株主の権利とは自益権、共益権いずれも含まれるとされ、議決権の行使、株主提案、株主総会の運営、株式の取得請求権、株主代表訴訟などあらゆる株主の権利の行使または不行使が該当します。株主になる、ならないといったことも含まれます。財産上の利益を無償で提供した場合または著しく少ない対価で提供した場合は株主の権利の行使に関して供与されたものと推定されます(120条2項)提供する「財産上の利益」は無償で提供する場合はもちろん、売買など対価を得て提供する場合も含まれます。その財産の範囲は財産的価値のあるものとされ、人の欲望をみたすあらゆるものとされる刑法の贈賄罪よりは範囲が限定されると言われております。また財産の提供は会社または子会社の計算で行われる必要があり、役員が自腹で提供しても利益供与には該当しません。
財産の返還義務
利益供与を受けた者はそれを会社に返還する義務を負います(120条3項)。これは利益供与に該当するか否かについて善意・悪意は無関係とされます。そして当該利益供与に関与した取締役や執行役等も供与を受けた者と連帯して会社に支払う義務を負います(同4項)。このうち取締役会決議で賛成した取締役、議案を提案した取締役などは自己の無過失を証明した場合は支払い義務を免れますが、利益供与行為を直接行った取締役または執行役は無過失を証明しても免れることはありません。またこれらの返還義務が免除されるには総株主の同意が必要とされております(同5項)。そして会社がこれらの責任を追求するための訴訟を提起しない場合は株主が代わって提訴できるとされます(847条1項3項)。
コメント
本件で京都新聞社は大株主に対して相談役報酬として総額19億円余りを提供していたとされます。報道では同大株主には相談役としての勤務実態は無く、ほぼ無償で多額の金銭を提供していたとのことです。これが事実であった場合、上記のように株主の権利行使に関して供与されたものと推定されることとなります。今回は時効にかかっていない10年分の約5億円の返還が求められておりますが、今後関与していた役員等にも責任追及が及ぶことも予想されます。なお京都新聞の現役記者から刑事告発もなされているとされます。以上のように会社法では株主等に会社から金品などを提供すると違法な利益供与になる場合があります。役員等も連帯して返還義務を負うだけでなく刑事罰も規定されております。創業家一族や大株主への慣例的な金銭の提供が行われていないか、今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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