金融庁がマニュライフに行政処分、節税保険とは
2022/07/19 金融法務, 行政対応, 保険業法
はじめに
金融庁は14日、「節税保険」の販売をめぐって、外資系大手「マニュライフ生命保険」に対し保険業法に基づく業務改善命令を出していたことがわかりました。旧経営陣の責任についても明記しているとのことです。今回は金融庁が問題視する節税保険について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、マニュライフは「低解約返戻金型逓増定期保険」と「個人年金保険」を利用して法人向けの租税回避を目的とした保険商品を販売していたとされます。かねてより保険会社によるこのような租税回避目的の保険商品販売に業を煮やしていた金融庁は、令和元年2月に法人税基本通達の改正を行い、再発防止に向けて取り組んでいたにもかかわらず、同社ではさらに抜け穴を突いた商品の開発を進めていたとのことです。金融庁は今年2月から6月にかけて立入検査を実施し、既に退任して他社に移動している旧経営陣についても言及する形で行政処分を出しました。
節税保険とは
節税保険とは、大手生命保険会社などが法人向けに販売する定期保険で、保険料が会社の経費に計上できるなど節税効果を主たる目的とした保険を言います。主に利用されるのは生命保険で、会社が支払った保険料を経費として計上できることから、会社の利益を圧縮することができ、法人税の節約につながります。また支払った保険料はその後解約返戻金として戻ってくることとなり、その返戻金を役員報酬などに当てることによって課税対象となることを回避することもできるとされます。2017年頃からこのような節税を目的とした保険が大手生命保険会社から販売され大ヒットした経緯があります。しかし国税庁はこれらの行為を悪質な租税回避行為として法人税基本通達を改正して対策に乗り出しました。
法人税基本通達の改正
通常生命保険は被保険者の加齢にともなって保険料も増額していきますが、保険料を平準化している保険の場合、保険期間の前半に支払う保険料には前払部分があり、中途解約をすると解約返戻金が発生します。この場合は会社の資産として計上することが困難なため、保険料は損金の額として算入されることとなっておりました(改正前法人税基本通達9-3-5)。しかし法人税基本通達改正によって、最高解約返戻率に応じて「50%超70%以下」「70%超85%以下」「85%超」の3つの区分に分け資産計上額が新たに定められました。資産計上額はこの区分の順に40%、60%、70%(最初の10年は90%)となっております。最高解約返戻率が50%以下の保険の場合はこれまでどおり保険料の全額が損金に算入されます。
保険業法による監督
保険業法128条1項によりますと、内閣総理大臣(金融庁長官)は保険会社の業務の健全かつ適切な運営を確保し、保険契約者等の保護を図るため必要があると認めるときは、保険会社に対してその業務または財産の状況に関する報告や資料の提出をもとめることができるとされます。また同様の場合に、保険会社の営業所、事務所その他の施設に立ち入り、業務・財産の状況に関して質問したり帳簿その他の物件を検査することもできます(129条)。そして保険会社の業務、財産、子会社の財産等の状況に照らして必要があると認めるときは業務改善や停止を命じることができます(132条)。さらに場合によっては役員等の解任や免許の取り消しを命じることもできるとされます(133条)。
コメント
本件でマニュライフが販売していたのは「低解約返戻金逓増定期保険」と呼ばれる保険商品で、契約からおおむね5年が経過することによって解約返戻金が大きく増加する仕組みとなっております。この大きく返戻金が増加する5年目の直前に契約名義を会社から役員個人に変更して、返戻金を役員の所得とするというものです。これにより役員報酬を受け取るよりも節税できるとされます。金融庁はこのようないわゆる「名変プラン」に対処すべく上記の通達改正を行いましたが、同社ではさらに抜け道を突いた商品開発を継続していたとされます。以上のように近年横行していた節税目的の保険の販売は悪質な租税回避として当局により規制が強化されてきております。保険商品を販売している保険会社だけでなく、節税保険に加入している会社も国税当局からの目は厳しくなるものと考えられます。今一度自社の税務対応についても見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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