ITbookホールディングスへの新株予約権発行差止仮処分命令の申立てが却下
2022/09/08 商事法務, 総会対応, 会社法
はじめに
ITbookホールディングス株式会社は、2022年8月25日、同社の株主による、新株予約権の発行の差止仮処分命令の申し立てが却下された旨、書面にて発表しました。今回却下された申立ては、2022年8月15日に同社取締役会において行われた「第三者割当により発行される新株式及び第4回新株予約権の発行の決議」を受けて、株式会社NEW ART HOLDINGSにより行われたものになります。
事案の概要
ITbookホールディングス株式会社は、東証グロース市場に上場中、主に官公庁等の公共機関向けにICTコンサルティング事業を手掛ける企業グループのホールディングス企業です。同社は、8月15日付の取締役会にて、新たな収益獲得・拡大及び財務基盤の安定化を目的として、第三者割当により発行される新株式及び第4回新株予約権の発行(以下、「本第三者割当」)を実施することを決議しました。
それに対し、同社の株式の2.4%にあたる542,000株を保有する株主、株式会社NEW ART HOLDINGS(東証スタンダード上場)は、
①本第三者割当は、NEW ART HOLDINGS社の議決権比率を低下させ、現経営陣の支配権を維持することを目的とするものである
②さらに、資金調達の必要性や資金調達の実効性を欠くものであり、著しく不公正な発行方法に該当するものである
として、 2022年8月18日付で東京地方裁判所に対し、本第三者割当の差し止めを求める仮処分命令の申立て(以下、「本申立て」)を行っていました。
これに対し、ITbookホールディングスは、本第三者割当により既存株式の議決権の希薄化が生じることは認めつつも、本第三者割当は収益獲得・拡大および財務基盤の安定化を図る株主の利益拡大にも繋がるものであるとして、本申立ての却下を求めていました。
そして、今回、東京地方裁判所は本申立てに関し、「理由がない」として、却下しました(申立て自体が不適法であるとして、理由の有無を判断することなく門前払いする民事訴訟上の制度)。
今後の見通し
ITbookホールディングスは、東京地方裁判所による今回の却下決定を受けて、8月31日(2022年)に、本第三者割当を実施するとしています。その一方で、NEW ART HOLDINGSによる即時抗告等も想定しているようです。
一方、NEW ART HOLDINGS側も、今回の却下決定に関し、8月26日付けでメッセージを出しています。概要としては、
・ここまで様々な法廷闘争を行ってきたものの、経営陣の反省が見られないこと
・第三者割当増資が228万株も実施されることで、株式が希薄化してしまい、株式価値の下落が避けられないこと
・それを踏まえると、当初、株購入時は1株350円だったものが現在は実質1株200円~250円の価値しかないと判断していること
・そのため、まだ高値を維持しているうちにITbookホールディングス株を売却することを決意したこと
などとなっています。
コメント
NEW ART HOLDINGSは、今年、4月26日に、ITbookホールディングスに対し、6名の取締役の選任を求める株主提案書を提出しています。これは、ITbookホールディングスの事業上、多額の損失が発生しており、さらに不当な資金流入や不正経理などの疑いがある状況下で、現経営陣から独立した立場で適切な経営判断を行う人材を置きたいという意図によるものでした。その際、NEW ART HOLDINGSの代表取締役は、「ITbookの経営改善を達成出来ずして経営から私が手を引く事は絶対にありません」と宣言していましたが、現経営陣を退けることが難しいと判断したのか、ついに株式の売却を決めたようです。
NEW ART HOLDINGSの代表によると、同社がITbookホールディングスの株式を大量保有したきっかけは、現経営陣の経営手法を心配したITbook創業者から経営の建て直しを打診されたためとしています。
双方から発表された内容のみでは、いずれに正当性があるのかは断言はできませんが、いずれにせよ、創業者からの事業引継ぎの難しさを示す事案だと思います。
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