消費者庁が有識者検討会、ステルスマーケティング規制の動き
2022/09/20 コンプライアンス, 広告法務, 景品表示法
はじめに
消費者庁は、広告であることを明かさずに口コミであるかのように装って宣伝する「ステルスマーケティング」について有識者検討会を開催すると発表しました。法規制を視野に入れているとのことです。今回はステルスマーケティングの問題点について見ていきます。
事案の概要
消費者庁の発表などによりますと、近年の消費生活のデジタル化の進展に伴い、デジタル広告市場はマスメディア4媒体を上回る規模となっているとされ、特にSNS上で展開される広告についてはその傾向が顕著とされます。そのような状況下で広告主が自らの広告であることを隠したまま広告を出稿する、いわゆる「ステルスマーケティング」の問題が一層顕在化しております。消費者庁の実態調査では、インフルエンサーの45%がステルスマーケティングの依頼を引き受けたと回答しているとのことです。これを受け消費者庁は有識者検討会を開催し、ステルスマーケティングに対する景表法による規制の必要性やその具体的な規制のあり方などについて検討していくとしております。
ステルスマーケティングの態様
ステルスマーケティング(ステマ)とは、消費者に商品やサービスの広告であることを気づかせずに行う宣伝活動を言います。いわゆるサクラややらせ行為の一種とも言えます。有名人や人気ブロガーが特定の商品を実際に使用し、オススメである旨の記事を掲載するとその宣伝効果は相当なものになると言えます。しかし実際には商品のメーカー等に依頼を受けて行っていた場合は問題であると言えます。このようなステルスマーケティングには一般に「なりすまし型」と「利益提供型」の2種類があると言われております。なりすまし型は商品のメーカーなど業者が消費者になりすまして口コミなどを投稿するといった手法です。利益提供型は芸能人やユーチューバーなどのいわゆるインフルエンサーに報酬を提供して宣伝を依頼するといった手法を言います。いずれも宣伝であることを隠して行います。
ステルスマーケティングの問題点
ステルスマーケティングは一般消費者から見たら、他の一般消費者が実際に使ってみた上で高評価をしているように見えることから通常の広告やCMよりも信憑性があるように見えます。そのため一般消費者に間違った印象を与え、自主的で合理的な判断を阻害するものと言えます。また後になって実は業者から報酬を受けて書いていた宣伝であったこと、または業者が自ら書いていた記事であったことが発覚した場合、消費者は騙されたと感じてネット上で炎上したり、会社の評判を落とす原因となります。しかしこういったステルスマーケティングに対しては現時点では直接取り締まる法規制は無いのが現状です。それでは同様の趣旨で消費者を誤認させる表示を規制している景表法を適用することはできないでしょうか。
ステルスマーケティングと景表法
景表法5条1号によりますと、「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し…一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある」表示は不当表示の一種として禁止されております。ステルスマーケティングで表示された内容が、実際のものよりも著しく優良であると示したものであればそれは優良誤認表示に該当することは問題ないと言えます。では表示された内容自体に景表法上の問題がなければどうでしょうか。この場合は景表法に抵触しないようにも思えます。しかしこの点につき日弁連は、表示された内容自体に問題がない場合でも、その表示が中立な第三者の意見であるかのように誤認されるならば、消費者の合理的な選択が阻害されるおそれがあるとして、ステルスマーケティングについても5条3号の指定に追加すべきとしております(日弁連意見書平成29年2月16日)。
コメント
消費者は一般的に商品の購入を検討する際に、メーカー等の事業者の広告や宣伝の他に中立的な第三者の意見も参考にしようと考えることが多いと言えます。実際に使ってみた人の意見は最も参考になるからです。しかし実際には事業者自身が書いていた場合、または報酬を受け依頼されて書いていた場合は消費者の合理的な判断を歪める欺瞞的な広告方法と言えます。実際に米国やEUでは不公正な競争手法として法規制が置かれております。しかし日本はOECD加盟国で唯一ステルスマーケティングに対する規制がなく問題視されております。上でも述べたように直接景表法を適用することが困難な場合も多く、日弁連も内閣総理大臣指定に追加すべきとしております。今回の消費者庁での有識者会議ではその点が議論されるものと予想され、近い将来規制が盛り込まれるものと思われます。今一度自社はこのような広告を行っていないか、確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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