SMBC日興証券の相場操縦事件、初公判が開廷
2022/11/02 コンプライアンス, 金融商品取引法
はじめに
10月28日、相場操縦に係る金融商品取引法違反の罪に問われた法人としてのSMBC日興証券株式会社を代表して近藤雄一郎社長が、東京地裁で開かれた初公判に出廷し、起訴内容を認めました。
報道などによりますと、SMBC日興証券の副社長と、エクイティ部元部長ら幹部5人は共謀して2021年4月、特定銘柄の終値の下落を防ぐために大量の買い注文を入れていたとされています。証券会社が立会時間外に大株主から株を買い取り売却先を募る、いわゆる「ブロックオファー取引」に絡んで上記買い注文を入れていたとのことです。東京地検特捜部は取引を成立させるために同社が組織的に株価を維持しようとしていたと見ており、逮捕、起訴に踏み切ったとされています。初公判では、元執行役員1名が起訴内容を認めましたが、副社長をはじめとする幹部ら5名は起訴内容を否認しているといいます。
なお、本事件に関連して金融庁は10月7日に金融商品取引法に基づき、ブロックオファー取引の新規勧誘・受託・取引に関する3ヶ月の業務業務停止命令をSMBC日興証券に出しています。
<処分の原因となった法令違反の事実>
(1) 上場株式の相場を安定させる目的をもって、違法に買付け等を行う行為
(2) 売買審査態勢の不備
(3) ブロックオファーに係る業務運営態勢の不備
(4) 銀行と連携して行う業務の運営が不適切な状況
SMBC日興証券株式会社及び株式会社三井住友フィナンシャルグループに対する行政処分等について(金融庁)
相場操縦とは
相場操縦とは、金融商品取引法上、有価証券の売買(上場有価証券、店頭売買有価証券、取扱有価証券の売買に限られる)やデリバティブ取引(先物取引、オプション取引、スワップ取引、為替予約)が頻繁に行われているといった誤解へ導くなどの目的で行う行為です。こうした行為は、公正な価格形成を阻害し、投資者に不測の損害を与えることとなるため、いわゆる不公正取引の一種として、金融商品取引法第159条各項にて規制されています。違反した場合には、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となります(同法第159条、第197条)。
本件では、株価が5070円程度に維持されるように指値5200円で大量の買い注文を入れるという、「安定操作取引」の態様で相場操縦を図ったとされています。
「安定操作取引」とは、第159条第3項に規定されており、有価証券の「相場をくぎ付けし、固定し、又は安定させる目的をもって」する一連の有価証券売買等とされており、相場操縦行為の一類型として禁止されています。もっとも、有価証券の募集・売出し等を容易にするために行う場合は、一定の要件の下で金融商品取引法上認められており、東証においても実施されています。
調査報告書でのコンプライアンス部門に対する指摘
今回の初公判に先立ち、SMBC 日興証券は、外部の弁護士3 名で構成される調査委員会を設置。事実関係の解明と評価、原因分析、再発防止策の取りまとめを進めていました。調査委員会による調査報告書は162ページに及びますが、報告書の中では、コンプライアンス部門に対する厳しい指摘も書かれています。
自己勘定取引に内在する相場操縦を含む不公正取引の危険性への通常の感度及び第 1 線への牽制機能を果たす意欲をもって適切な報告がなされていれば、以後の本自己勘定取引を未然に防止できた可能性があることに鑑みると、内管や売買管理部を含むコンプライアンス関連部門における組織的なレポーティング態勢の不備が本事案を拡大させたといっても過言ではない。
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・コンプライアンス部門として意欲的な牽制や報告を行った場合に、①上長や上位機関から確実なバックアップを得られる、②多角的視点からのバランスの取れた議論が進められるといった態勢が構築されておらず、牽制・報告を行っても孤軍奮闘しなければならないといった不安感があった可能性は否定できない。
・SMBC日興証券のコンプライアンス部門は、対等で並列的な5つの部で構成されているが、各部の役割分担が不明確。その結果、各部が自己の業務分掌を限定的に解釈し、お見合いの状態が生じ、実質的に空白地帯が生じた可能性は否定できない。
・SMBC日興証券社内では、法令の解釈が関係者によってバラバラであった。そのため、法令解釈が当部署の判断に事実上委ねられる結果となっていた。それに対し、コンプライアンス関連の各部門が連携することもなく、結局、関係法令の解釈について、責任をもって一元的に判断し提示する部門がなかった。
【関連リンク】
・調査報告書(開示版)
コメント
調査報告書を読む限り、SMBC日興証券のコンプライアンス部門の持つ権限の小ささ、社内プレゼンスの低さが、今回の事件の拡大を防げなかった一因と考えられます。一般論として、現場の業務負荷が高いビジネスモデルを軸としている会社では、現場の声が強く、法務・コンプライアンス部門の発言権が弱まる傾向があります。現場での日々の業務負荷が高い分、法務・コンプライアンス部門をコストセンターとみなす傾向が強まるためと考えられます。今回のSMBC日興証券の事件で、同社のコンプライアンス部門が積極的な関わりが持てなかった背景も、その辺りにあるのかもしれません。
やはり、コンプライアンス体制構築の大前提として、法務・コンプライアンス部門が、十分な権限を持ち、社内で尊重される立場に置かれる必要があります。経営層がコンプライアンスにどれほどの重きを置いているのかにも大きく左右されるため、法務・コンプライアンス部門単独での活動には限界があるかもしれませんが、日々、部門として、社内でのプレゼンスを上げるための施策を意図的に行うことが重要になるのではないでしょうか。
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