サカイホールディングス、連結子会社元役員に任務懈怠責任に基づく損害賠償請求
2022/11/02 訴訟対応, 会社法
はじめに
株式会社サカイホールディングス(東証スタンダード上場中)は、10月26日、連結子会社の元役員4名に対し、任務懈怠を理由とする損害賠償請求訴訟を名古屋地方裁判所に提起しました。請求額は1億4434万8104円で、サカイホールディングスは、これを連帯して賠償するよう求めています。本記事では、今回の訴訟の概要をご紹介します。
訴訟までの経緯
1.連結子会社における売掛金過大計上の疑い
「2022年9月期第1四半期報告書」のレビューの過程で会計監査人より、「連結子会社、株式会社セントラルパートナーズにて、売掛金の過大計上の疑いがある」旨の指摘を受ける。それに伴い、2022年2月9日、独立調査委員会を設置。
2.独立調査委員会による調査報告書の受領
2022年3月25日、独立調査委員会による調査報告書を受領。当該調査報告書の結果、セントラルパートナーズの代表取締役社長Aの指示のもと、同社にて架空の売上・売掛金が計上されたと認定。
3.訴訟の提起
セントラルパートナーズの元役員4名に任務懈怠が認められるとして、10月26日、名古屋地方裁判所に訴訟提起。
なお、本件に関連し2022年8月22日、サカイホールディングスの株主1名が同社の取締役1名に対し、任務懈怠責任に基づく損害賠償(請求額3486万9000円)を求める株主代表訴訟を名古屋地方裁判所に提起しています。
独立調査委員会による調査報告書の概要
不正会計の概要
株式会社セントラルパートナーズは岐阜県に本社を置く、地域密着型の保険代理店です。調査報告書によると、セントラルパートナーズの経理実務責任者を務めるB氏が、保険会社から入手する代理店手数料明細を基礎に、表計算ソフトを用いて、“2年基準(代理店手数料の2年分を売上に計上する)”を用いた売上・売掛金を計算する作業を単独で担当していました。
当該作業の際、B氏は、代理店手数料収入のデータを不正に改ざんし、売上を不当に水増ししていたとされています。2年基準によって計上される売上は、将来に入金が見込まれるものという位置づけとなるため、B氏によって架空計上された売上は、そのまま架空の売掛金残高としても滞留していたといいます。
不正会計の原因
調査報告書では、不正会計が行われた背景として、以下が挙げられています。
(1)2010年9月期から業績好調となったセントラルパートナーズでは、2013年頃から上場を目指すようになった。
(2)2013年12月、サカイホールディングスの会長C氏からの強い期待を受け、A氏が同社の代表取締役に就任。しかし、その後に同社の業績が伸び悩み、上場中止に。
(3)しかし、C氏からA社長への期待は変わらず。サカイホールディングスの取締役への就任、創業家以外では最多の150,000 個の新株予約権の付与など、厚遇される。もっとも、こうした期待がA社長にとり、プレッシャーになった可能性。
(4)2013年~14年頃から、セントラルパートナーズでは、C氏による会長承認の際に報告する月次営業実績に関し、翌月の営業実績の一部を当月の営業実績とする等の手法で水増しを行うようになっていった。その結果、2015 年~16 年にかけ、全ての月で営業目標を達成できる見込みとの報告を行う。
(5)営業目標を達成しているとの報告に反し、2016年9月期第1四半期には、セントラルパートナーズの営業利益がマイナスに。
(6)社長であるA氏は経理責任者B氏に対し、この不自然な結果を隠蔽するため、事業計画や営業目標の達成状況の報告に沿った営業利益となるよう財務諸表の修正を指示。
(7)当該指示に基づき、B氏が不正会計を実行。
コメント
今回、サカイホールディングスは、セントラルパートナーズの元役員らの責任を追及する訴訟を提起しましたが、調査報告書では、サカイホールディングスの内部監査室の機能不全や子会社管理の杜撰さについても厳しく指摘されています。
また、セントラルパートナーズ内で規範意識が薄れて行った要因として、サカイホールディングスにおける創業者一族の絶対的な権限のもと、子会社として良好な営業成績を維持するべく、事業計画を常に達成しなければならないというプレッシャーがあったのではと推測されています。
創業者の権限の強さは、ときに子会社に対し、営業成績の向上・維持をコンプライアンスに優先させるトリガーとなり得るということだと思います。創業者の存在感が大きい企業にお勤めの方は、自社の子会社管理が適切に行われているか、改めて見直してみるとよいかもしれません。
【関連リンク】調査報告書(独立調査委員会)
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