公取委と経産省、下請事業者への不当なしわ寄せ防止を呼びかけ
2022/11/29 コンプライアンス, 下請法
はじめに
公正取引委員会及び経済産業省が以前から対処してきた「下請代金支払遅延等防止法」の違反行為への対処と普及啓発の呼びかけ。今年はウクライナ情勢や円安等の影響で、エネルギー価格や原材料費が高騰する状況が長期化するなどし、中小企業・小規模事業者には大きな影響が出ていると警鐘を鳴らしています。
下請事業者への不当なしわ寄せが生じないように、公取委、経産省は親事業者へ周知徹底を図ることなどについて、11月25日に関係事業者団体1,650団体に対し、連名の文書をもって要請したということです。
下請け法の禁止事項
正式名称「下請代金支払遅延等防止法」、広く“下請け法”と呼ばれるこの法律は、資本力が小さい中小企業や個人事業主を守るために制定されました。親会社が発注した商品やサービスなどの支払いを不当に減額したり、返品することや、支払い自体を遅延、購入や利用の強制も禁止事項に当てはまり、独占禁止法を補完する法律として位置付けられています。
禁止行為
・受領拒否
注文した物品等の受領を拒むこと。
・下請代金の支払遅延
下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと。
・下請代金の減額
あらかじめ定めた下請代金を減額すること。
・返品
受け取った物を返品すること。
・買いたたき
類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。
・購入・利用強制
親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること。
・報復措置
下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して,取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。
・有償支給原材料等の対価の早期決済
有償で支給した原材料等の対価を,当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること。
・割引困難な手形の交付
一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
・不当な経済上の利益の提供要請
下請事業者から金銭,労務の提供等をさせること。
・不当な給付内容の変更及び不当なやり直し
費用を負担せずに注文内容を変更し,又は受領後にやり直しをさせること。
対象となる取引
どういった取引が対象となるのでしょうか。下請け法で保護される取引は4種類あります。
「製造委託」
親事業者の事業での販売にかかる商品などを製造、加工する取引
「修理委託」
修理を依頼する取引
「情報成果物作成委託」
プログラム制作などを依頼する取引
「役務提供委託」
運送、メンテナンス、顧客サポート業務などを委託する取引
ただし、「親事業者」の定義がそれぞれ資本金の額で区分されていきます。
また、取引の内容によっても異なります。
○物品の製造、修理委託、情報成果物委託(プログラム作成に限定)、役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に限定)
○情報成果物作成・役務提供委託 (プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管や情報処理除く)
親会社の義務と罰則
下請け取引において、親会社として順守するべき義務があります。
・3条書面の交付
・5条書類の作成。取引内容を記載し、2年間の保存義務
・支払期日の設定
・遅延利息の支払義務
公正取引委員会では、以上の義務に違反していたり、その恐れがある事業者に、指導・勧告を実施しています。
勧告を受けると、企業名が公表される場合があります。また、書面の交付義務や保存義務を守らないと、50万円以下の刑事罰が下されます。
一方で、発注者側が下請法違反を自発的に申告すると、過去の代金減額分の返還などを条件として、勧告などがされないこともあります。
令和3年度の勧告件数は近年減少傾向にありますが、勧告件数は過去5年間で最多となった令和2年度よりほぼ横ばいとなっています。
○勧告件数4件。
対象:下請代金の減額4件
○指導件数7922件
平成30年度から指導件数が増加。
令和元年8016件
令和2年度は8107件(過去5年間で最多)
知財Gメンの創設
こうした中、行政も積極的に適正化に向けて動き始めています。中小企業庁では5つの取り組みを行っています。
(1)価格交渉のより一層の促進
(2)パートナーシップ構築宣言の大企業への拡大、実効性の向上
(3)下請取引の監督強化
(4)知財Gメンの創設と知財関連の対応強化
(5)約束手形の2026年までの利用廃止への道筋
このなかで、令和4年に新設されたのが「知財Gメン」です。知的財産権に対する優越的行為を監視する役割があります。
これまでにも公正取引員会は事業者から 「優越的な地位にある事業者が製造業者からノウハウや知的財産権を不当に吸い上げている」との指摘を受けていました。実態調査を実施したところ、以下の事例などが報告されたということです。
・ノウハウの開示を強要される
例)営業秘密のレシピを「商品カルテ」に記載させられた挙げ句に模倣品を製造され,取引を停止される
・名ばかりの共同研究を強いられる
例)ほとんど自社で研究するの に,成果は取引先だけに無 償で帰属するという名ばかりの共同研究開発契約を押し付けられる
・特許出願に干渉される
例_取引と関係のない自社だけ で生み出した発明等を出願 する場合でも,内容を事前 報告させられ,修正指示に 応じさせられる
・知的財産権の無償譲渡を強要される
例)一方的に無償ライセンスさせられる
製造業者のノウハウ・知的財産権 を対象とした優越的地位の濫用行 為等に関する実態調査報告書
こうした事態に対応すべく設立されたのが、知財Gメン。知財取引の適正化に対応するための専門チームとして運営され、中小企業からヒアリングを実施し、問題事例などをとりまとめるということです。
収集した問題事例などは、「知的財産取引アドバイザリーボード」のなかで弁護士や弁理士などの専門家に報告され、親事業者への「指導・助言」の必要性を諮問することとなります。
コメント
世界情勢のあおりを受ける中小企業を保護する機運が高まっています。そのため、今後、下請法違反に対する取り締まりが強化されることが予想されます。
一方で、下請事業者との間の取引実態は、現場担当者でないと見えにくい面があります。普段の取引において、自社の下請事業者に対する支払いが適正に行われているのか、取引における書面を作成しているのかなど、今一度確認しておくとよいでしょう。
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