テラスハウス問題、木村花さん母がフジテレビらを提訴
2022/12/08 コンプライアンス, 刑事法, プロバイダ責任制限法
はじめに
フジテレビのリアリティー番組「テラスハウス」に出演していたプロレスラー木村花さん(当時22歳)がSNSで誹謗中傷を受けた後に自ら命をたった問題で、花さんの母・響子さん(45)は6日、フジテレビと制作会社など2社に対して計約1億4200万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしました。
問題の経緯とフジテレビの対応
恋愛リアリティーショー「テラスハウス」に出演していた木村花さんは、自身が共演男性に激怒するシーンが放送されたことをきっかけに、SNS上で苛烈な誹謗中傷を受け続け、その後、22歳という若さで自ら命を絶ったとされています。
番組では花さんたちが出演する本編シーンとは別に、出演者らがスタジオでトークするパートが設けられていました。その中で花さんが激怒するシーンが流れた後、共演者たちが否定的なコメントを繰り返し発言していて、その点もまた、SNSでの「炎上」や中傷を煽ることに繋がっていたと指摘されています。
報道によれば、提訴されたのは、フジテレビと、番組の共同制作を行ったE&W(放送当時:イースト・エンタテインメント)、制作事業を承継したイースト・ファクトリーの3社ということです。
訴状の中で響子さん側は、テラスハウスの制作サイドは「リアルであることを積極的に宣伝し、出演者が標的になりやすい構造をつくっていた」と、出演者が深刻な誹謗中傷などにさらされる危険性を高めていたことを指摘しています。そのうえで、番組の撮影や編集・配信する際などには、出演者の心身の健康に注意・配慮し、中傷に対応する義務があったにも関わらず、これを怠り、視聴者の感情を刺激するような番組を制作したとして、訴訟提起するに至ったとしています。
提訴に対し、フジテレビは「訴状が正式に届いていないのでコメントは控える」、E&Wとイースト・ファクトリーは「訴状が届き次第、対応を検討したい」と話しているということです。
法の見直し①プロバイダ責任制限法
世間に大きな衝撃を与えた木村花さんの問題は、法改正にも大きく影響しました。
1つはプロバイダ責任制限法です。
これはSNSはじめ、インターネット上の情報による権利侵害があった場合について、「プロバイダ」の損害賠償責任の制限と発信者情報の開示を請求する権利を定めるものです。
木村花さんや、親子2人が亡くなった池袋暴走事故の遺族への誹謗中傷などが問題となり、2022年10月に法改正がなされました。
これまではSNSなどで誹謗中傷を受けた被害者が損害賠償を求める際には、TwitterやFacebookなどのSNS事業者にIPアドレスなどの投稿者の通信記録の開示請求を実施。そしてプロバイダーに対する契約者情報開示請求をした後に、そこで得た情報から発信者を提訴する長い手続きが必要でした。
実際に、響子さんが、花さんが亡くなった後に投稿された誹謗中傷に対する訴訟は、発信者の男性を特定するまでに時間がかかり、提訴までに半年以上かかっています。
こうした状況を受け、総務省は法律の見直しに着手し、1回の裁判手続きで氏名や住所を含む発信者情報の開示を求められる発信者情報開示制度を創設し、発信者特定の手続きの迅速化に取り組んでいます。
法の見直し②侮辱罪
2つ目が侮辱罪です。
「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する」とされ、単に「馬鹿野郎」「クズ」「デブ」「ブラック企業」といった誹謗中傷行為を指し、ネット上の誹謗中傷はこの侮辱罪に該当する可能性があるものです。
花さんへの書き込みのうち約200アカウント、300件の投稿が誹謗中傷と判断され、男性2人がが侮辱罪で略式起訴されています。しかし科料が9000円だったことで、厳罰化を求める声が高まっていました。
そこで法務省は従来「勾留または科料」だった法定刑を、「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」法定刑の引き上げたのです。
プロバイダ責任制限法による発信者情報開示制度などが創設し抑止対策として、ていましたが、匿名での誹謗中傷や風評被害を受ける例が後を絶たないことから、そもそもの誹謗中傷の抑止効果が必要であるとして侮辱罪の法定刑の強化にいたったとされます。
コメント
企業も気軽にSNSなどを通じて発信ができるようになりました。その一方で、事実無根の内容や誹謗中傷などを書き込まれ、風評被害を受けた企業も少なくありません。
SNSの運用を企業自身がしっかり行うことも重要ですが、万が一、第三者から風評被害や誹謗中傷を受けた際の対策についても、今一度見直しておくとが大切です。
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