東京高裁がコンビニ店主の団交権を否定、労働法の労働者性について
2022/12/21 労務法務, 労働法全般
はじめに
コンビニ大手「セブンイレブンジャパン」とフランチャイズ契約を結ぶ店主に団体交渉権が認められるかが争われている訴訟の控訴審で東京高裁は21日、否定した東京地裁判決を支持し控訴棄却しました。独立した事業者であるとのことです。今回は各種労働法令における労働者該当性について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、コンビニ店主らでつくる「コンビニ加盟店ユニオン」(岡山市)は2010年にセブンイレブンが団体交渉に応じないのは不当労働行為であるとして岡山県労働委員会に救済を申し立てたとされます。これにより県労委は2014年に同社に対し団体交渉に応じるよう命じましたが、中央労働委員会は2019年に団交権を認めず、県労委の命令を取り消したとのことです。ユニオン側は中労委の判断の取り消しを求め提訴しました。一審東京地裁は、店主は従業員の採用、労働条件、販売戦略などの決定を自ら行え得る立場にあるとし、独立した事業者であるとして労働者性を否定しました。
労基法上の労働者性
各種労働法令が適用されるか否かについては、まずそれぞれの定義する「労働者」に該当するかを検討する必要があります。労働基準法9条によりますと、労働者とは「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」とされます。これをより具体的に基準化して、(1)指揮監督下の労働性、(2)報酬の労務対償性、(3)補強要素で判断すると言われております。指揮監督下の労働と言えるかについては、仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行に当っての指揮監督の有無、勤務場所および勤務時間に関する拘束の有無、労務提供の代替性の有無で判断するとされます。補強要素とは、事業者性を有するか、ある特定の相手との間に専属性が認められるか、その他採用の過程、公租公課の負担関係などとされます。これらを総合的に考慮して労働者と言えるかが判断されます。労働者性が否定された事例として、ダンボール工場に自家用トラックを持ち込み、工場の指示に従って製品の運送業務を行っていた例が挙げられます。この事例では運送先と納入時期だけが指示されていたものの、それ以外の指揮監督は無く、時間的・場所的拘束も一般従業員に比べて緩やかだったとされます(最判平成8年11月28日)。
労働契約法上の労働者性
労働契約法2条1項では、労働者とは「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう」とされており、使用者とは「その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう」とされます。上記労働基準法とくらべると「事業に使用される者」という要件がなく、労働契約法の労働者性のほうがより緩やかと言えます。そのため労働基準法上の労働者に該当する場合は当然に労働組合法上も労働者に該当すると考えられております。実際に労働組合法上の労働者性が争われた事例でも基本的には労働基準法上の判断基準を用いて判断され、指揮監督、時間的拘束の程度が低いこと、再委託が認められていることなどから労働者性を否定された例があります(大阪高裁平成27年9月11日)。
労働組合法上の労働者性
労働組合法3条によりますと、労働者とは「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう」とされております。条文上は上記2つの法令にくらべてさらに簡潔になり、「使用者に使用されて」の要件もなくなりました。そのため要件がより抽象的でわかりにくいと問題視されております。最高裁は判断要素として(1)事業組織に組み入れられていること、(2)契約内容に個別の交渉余地は無く一方的に決定されること、(3)支払われるものが労務提供の対価としての性質を有すること、(4)基本的に業務依頼に応ずべき関係にあること、(5)指揮監督下にあり場所的・時間的に相応の拘束を受けることを挙げており、逆に労働者性を否定する要素として事業者性が挙げられております(最判平成23年4月12日INAX事件等)。しかし最高裁は一般的な判断基準を示しているわけではなく、労基法での判断と同じなのか異なるのかも判然としないと言われております。
コメント
本件で一審東京地裁は、最高裁と同様の判断要素を示した上で、商品の仕入れ、従業員の採用、立地など店舗経営の基本方針や重要事項の決定を店主自らが「事業者」として行っているとし、収益も商品の対価であり労務提供の対価とは言えないとして労働者性を否定しました。二審東京高裁もこれを支持しております。これに対して先月東京都労働委員会はウーバーイーツ配達員についてはウーバー社が配達員の評価制度やアカウント停止措置などにより行動を統制し注文全体の99%を配達員が配達していることから事業組織に組み入れられているとして労働者性を肯定しております。以上のように各労働法令ではそれぞれ条文上は労働者の要件が異なり、労働組合法は他よりも要件が緩やかとなっておりますが、基本的には似たような判断基準となっております。契約上の文言や名目ではなく実質で判断されることになります。これらを踏まえて自社での労務管理を見直していくことが重要と言えるでしょう。
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