消費者庁がパブリックコメント募集中、「ステマ」の不当表示案について
2023/01/31 広告法務, 景品表示法
はじめに
消費者庁は25日、広告であることを隠して広告する、いわゆる「ステマ」を景表法の不当表示に指定する告示案とその運用基準を策定したと発表しました。現在これらのパブリックコメントを募集しているとのことです。今回はステマの不当表示案について概観していきます。
告示案策定の経緯
近年、消費生活のデジタル化の進展に伴い、デジタル広告市場の拡大が著しく、特にSNS上ではその傾向が顕著になっているとされます。そういった中、広告主が自らの広告であることを隠したまま広告を出すなど、いわゆるステルスマーケティングの問題がよりいっそう顕在化していると言われております。これらステマ行為は一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害し、一般消費者の消費生活に損害を与える危険性があると言えます。そこで消費者庁では昨年から、ステマ行為に対する景表法による規制の必要性とその具体的なあり方について検討会を続けてきました。そして昨年12月に同検討会はステマを「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」として景表法の不当表示に含める告示案とその運用基準案を作成し、今月25日からそれに対するパグリックコメントを募集しております。
景表法の不当表示
景表法5条によりますと、事業者は自己の供給する商品または役務の取引について、実際のものよりも著しく優良であると示し不当に顧客を誘引することや、実際のものまたは他社のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認させ、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある表示を禁止しております。いわゆる「優良誤認表示」と「有利誤認表示」です(同1号、2号)。そしてこれらの他に、一般消費者に誤認させるおそれがある表示であって、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあるとして内閣総理大臣が指定するものも不当表示とされます(同3号)。現在指定されているものとしては、無果汁の清涼飲料水等、商品の原産国、消費者信用の融資費用、不動産のおとり広告、その他のおとり広告、有料老人ホームに関する表示となっております。これらを変更または廃止する際には公聴会を開き、一般の意見と消費者委員会の意見を求めることとなっております(6条1項)。
ステマに関する告示案
今回の消費者庁発表による告示案では、景表法5条3号の指定として、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」としております。いわゆる「ステマ」の定義と言えます。そして同時に公表された運用基準によりますと、ステマに当たる場合として(1)事業者が自ら行う表示である場合、または(2)事業者が第三者に行わせる表示である場合が挙げられております。前者は、例えば事業者の従業員や子会社の従業員に商品等の宣伝をさせる場合も含まれるとされます。この場合、従業員の地位や担当業務、表示目的などの実態を踏まえて判断するとしております。後者については、例えば第三者のSNS上で宣伝させる場合、電子商取引サイトでのいわゆる不正レビュー等を行うブローカーに依頼して宣伝する場合、アフィリエイター等に委託して宣伝する場合が挙げられております。事業者がこれら第三者に明示的に依頼していない場合でも、ある程度内容を決定できる程度の関係性があり、第三者が自主的に表示したものと客観的に認められない場合は該当するとされます。
一般消費者の判断について
同運用基準では「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難である」かどうかについて、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているかどうかを表示内容全体から判断するとしております。そして明瞭となっていない場合として、事業者の広告であることが全く記載されていない場合、アフィリエイトサイトに事業者の広告であることが記載されていない場合など広告主体の記載がない場合が挙げられております。また事業者の広告である旨について部分的な表示しかしていない場合、「これは第三者として感想を記載しています」と事業者によるものとわかりにくいものである場合、動画で事業者の表示を一般消費者が認識できないほど短い時間行った場合、一般消費者が認識できない文言を使用した場合、一般消費者が視認しにくい表示の末尾の位置に表示した場合、大量のハッシュタグで事業者の表示であることを他の情報に紛れ込ませた場合など、広告主体が不明瞭な方法で記載されている場合も挙げられております。「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」などといった文言をわかりやすく表示すると明瞭と言えるとされます。
コメント
近年のSNSやユーチューブなどといったインターネット上のデジタル広告媒体の発展に伴い、商品やサービスの広告も従来のテレビや新聞広告などからこれらのデジタル媒体への移行が急速に進んでおります。それに伴い、第三者が使ってみた上で感想を投稿しているかのように見せかけた、いわゆるステマの氾濫が問題視されてきました。消費者庁検討会の報告でもこのようなステマを仲介している悪質業者(ブローカー)の横行にも触れられております。そこでこのようなステマ行為も景表法が規制する不当表示に含まれることとなりました。今回の告示案は今年2023年の秋を目処に施行される見通しとなっております。以上のようにインターネットでの不当な広告行為については今後規制が強化されていくものと予想されます。また施行前であってもステマであったことが発覚した場合は、一般消費者からのレピュテーションリスクが非常に高いものと言えます。今一度自社でのマーケティング戦略を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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