高齢労働者の労災が増加傾向、厚労省が対策強化へ
2023/03/27 労務法務, 労働法全般
はじめに
労働者が仕事や通勤が原因で、負傷し病気に罹患する労働災害。いわゆる「労災」として知られていますが、その労災による休業4日以上の死傷者数のうち、60歳以上の労働者の占める割合は25.7%と、全死傷者数の約4分の1を占めています(令和3年度)。絶対数に目を向けても、60歳以上の労働者(以下、「高齢労働者」)が38,574 人となっており、平成29年度比で28.5%増と大幅な増加を見せています。
【参考】
令和3年労働災害発生状況の分析等
高齢者の労災
厚生労働省などによりますと、令和3年の労働者全体に占める60歳以上の労働者の割合は18.2%。この割合に照らすと、上述の「休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の労働者の割合=25.7%」の高さが伺えます。特に転倒による労災発生率が高いといいます。
事故の類型に目を向けると、特に死傷者数の最も多い類型である「転倒(全体の22.5%)」が平成29年比18.9%増、腰痛等を引き起こす「動作の反動・無理な動作」が同28.4%増と大幅に増加しています。さらに、転倒災害のうち、60.6%が休業見込期間が1ヶ月以上となっており、重症に繋がる事案が多いことがわかります。
今後も増加することが予想される、高齢労働者。総務省の2020年度の統計では、高齢労働者の就業者数は2004年以降、17年連続で増加し906万人と過去最多となったと発表しています。就業率も25.1%と9年連続で上昇。特に、65~69歳は9年連続で上昇し49.6%と右肩上がりです。
こうした背景には「団塊の世代」の高齢化などが挙げられます。高労働者数の対前年増減を見てみると、2013年から2016年にかけて主に65~69歳で増加していますが、2017年以降は「団塊の世代」が70歳となり始めたことなどにより、主に70歳以上で増加しています。
高齢就業者を主な産業別にみると、卸売業、小売業が多いとされています。
・「卸売業、小売業」 128万人(最多)
・「農業、林業」 106万人
・「サービス業(他に分類されないもの)」104万人
・「製造業」、「医療,福祉」 それぞれ92万人
また、各産業の就業者に占める高齢就業者の割合は次のようになっています。
・「農業,林業」 53.0%(最多)
・「不動産業,物品賃貸業」 26.4%
・「サービス業(他に分類されないもの)」23.0%
・「生活関連サービス業,娯楽業」 18.7%などとなっています。
さらに雇用形態に着目すると、非正規の職員・従業員が76.5%を占め、そのうちパート・アルバイトの割合が52.5%と最も高い結果が出ています。
高齢労働者の労災事例
では、高齢労働者の労災の事例には、具体的にどういったものがあるのでしょうか。一例として下記のようなものが報告されています。
・男性(60代)
営業所構内で、他の同僚が運転するフォークリフトと衝突し、後遺障害を負った事案
・女性(60代)
清掃関連の労働中に階段から転落、複数箇所骨折する重傷
・女性(60代)
倉庫の段ボールにつまずき転倒し、大腿骨を骨折。3ヶ月休業。
・男性(50代)
濡れた床面に滑って転倒し、手首を骨折。1ヶ月休業。
一方で、労災が認められないケースもあり、訴訟にまで進展しています。
■住み込み家政婦の労災訴訟
都内の会社に家政婦および訪問介護ヘルパーとして登録していた68歳の女性が、寝たきりの高齢者がいる家庭に、1週間住み込みで家事や介護にあたった後に死亡した事案です。遺族側は、労災と認められなかったことを不当とし、国に対し処分の取り消しを求める訴訟を提起しました。しかし、東京地方裁判所は、「女性が行っていた家事と介護のうち、家事は会社の指示に基づく業務とはいえない」として、請求を棄却しています。
第14次労働災害防止計画
高齢労働者の増加を見据え、来月4月から、第14次労働災害防止計画がスタートします。この計画の中では、高齢労働者の労災防止対策について、次のような記載があります。
○事業者が取り組むこと
・「エイジフレンドリーガイドライン」に基づき、高年齢労働者の就労状況等を踏まえた安全衛生管理体制の確立を進める。
・転倒災害が、対策を講ずべきリスクであることを認識し、その取組を進める。
・健康診断情報の電磁的な保存・管理や保険者へのデータ提供を行い、プライバシー等に配慮しつつ、保険者と連携して、年齢を問わず、労働者の疾病予防、健康づくり等のコラボヘルスに取り組む。
国としても経済的な支援を行う方針で、厚生労働省でも、「企業で高齢者などが体力作りに取り組めるよう、支援策をさらに整えていく」ということです。
具体的には、中高年の労働者の体力作りに取り組む企業への助成金の拡充や、労災が起きやすい場所や状況を分析する体制を国が整えるなど対策を進め、令和9年までに労災を減少させたいとしています。
コメント
少子化による各業界での人手不足の影響もあり、これから数年にわたり高齢労働者の雇用機会が増加する見込みです。そのため、これまで高齢労働者を雇っていなかった企業でも、雇用を検討する場面が増えるかも知れません。
高齢労働は、若年労働者に比べ、平衡機能48%、薄明順応36%、視力63%、伸脚力63%、瞬発反応71%、運動調整能59%な
ど大きな身体機能の低下がみられるとされています(高年齢労働者の身体的特性の変化による災害リスク低減推進事業に係る調査研究報告書)。
労災、そして、そこから派生する労務紛争を予防するため、会社としても高齢労働者の身体機能の特徴や労災パターンを把握し、予防策を講じる必要があります。
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