銘菓チロリアンの商標をめぐる訴訟、総本舗と本家が和解
2023/04/04 知財・ライセンス, 商標法
はじめに
福岡県を中心に60年以上親しまれている銘菓「チロリアン」。“株式会社千鳥饅頭総本舗”と“株式会社千鳥屋本家”が同じ名称で販売を続けて来ました。その「チロリアン」の商標権をめぐる訴訟で、2022年12月27日、和解が成立していたことがわかりました。
チロリアンをめぐる訴訟
「チロリアン 」とは、ロール型のクッキーのなかに、クリームが入ったお菓子のこと。1962年に発売されて以来、福岡県を中心に人気商品となっています。その銘菓をめぐる訴訟。
訴えを提起していたのは、菓子製造販売事業を営む株式会社千鳥饅頭総本舗(以下、「総本舗」)です。千鳥饅頭総本舗は「チロリアン」の商標権の権利を保有していて、同じ名称で販売してきた株式会社千鳥屋本家(以下、「本家」)に商品名の使用禁止や損害賠償を求めていました。この訴訟に関して、昨年12月27日に大阪地裁で和解が成立していたということです。
和解の内容は、本家が商品名を変更し、総本舗に対し解決金5千万円を支払うというもの。すでに本家は商品名を「ヨーデルン」に変更して販売を始め、包装なども一新しています。
4つに分立した「千鳥屋」
千鳥屋は、もともと寛永7年に現在の佐賀市で創業した菓子店「松月堂」をルーツに持ち、その後、「千鳥屋」の屋号で菓子製造販売業を営んできました。千鳥屋を経営していたのは女性でしたが、後にその息子4人が事業を継承しています。
その際、先代の女性経営者は「身内の争いは信用を落とす最大の要因。兄弟間の争いは絶対に避けなければならない」と考え、4人はそれぞれ営業エリアを分けることに。
長男が東京地区、次男と四男は福岡・九州地区、三男は関西地区と、異なる3つの営業エリアで別々に3つの法人を立ち上げていました。その後、次男と四男が担当していた福岡地区でさらに分立し、結果的に4つに分立しています。
なお、現在は東京にあった千鳥屋総本家は売上低下や原材料価格の高騰などの影響で経営が悪化し、2019年に廃業しています。
過去にも訴訟が
身内の争いを回避するべく行われた分立。しかし、チロリアンを巡っては、今回の訴訟以外にも法的紛争が生じています。
2016年、関西の「株式会社千鳥屋宗家(以下、「宗家」」が、福岡・博多区の“総本舗”に対して、関西地区での販売差し止めなどを求め訴訟を提起したのです。
同じルーツを持つ企業同士、全国でうまく販売を拡大できるよう、営業エリアを分けていたにも関わらず、その合意を破り、「チロリアン」を販売したというのが宗家側の主張でした。一方で、総本舗側は「法的拘束力がある契約として承諾したことはない」などと反論していました。
この訴訟で大阪地裁は、宗家側の訴えを棄却。「兄弟間で互いの事業に口出しをしないと合意したにすぎず、販売地域の競合を避ける合意があったとは認められない」と判断しています。
同族経営の難しさ
国税庁によりますと、日本では家族や親族などある特定の一族が会社を経営する「同族経営」が96%にものぼると言います。
法人数内訳(国税庁)
日本を代表するトヨタ自動車株式会社はじめ、サントリーホールディングス株式会社、パナソニック ホールディングス株式会社など世界的な企業も同族経営です。
迅速な経営判断ができたり、事業を進める上で大切な企業理念を共有し、理解しあうことができるなど、大きなメリットがあると言われています。
一方でデメリットもあります。その一つが、相続問題で、経営権をめぐる対立があること。また、経営権の独占も問題となる場合があります。例えば、親族や家族だからという理由だけで、特定の高いポジションを用意し、本来適切な人物が就任できないということが考えられます。こうした不公平感の蔓延は人材の流出にもつながりかねません。さらに、公私の線引きの曖昧さから、会社経費の私的流用が行われるケースもあります。
コメント
一緒に暮らし、育ってきた兄弟、親子あるいは親戚だからこそ、分かり合えることもあれば、譲れないことこともあるでしょう。
企業に歴史があり、さらに知名度もある商品やサービスを持っているともなれば、「家族だから」という言葉では許し合えないのかもしれません。
同族だからこそ、経営権に関する重要な合意事項は、綿密な協議のうえで契約書に落とし込むことが重要になりそうです。
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