イベント中止なのに返金なしで提訴、共通義務確認訴訟とは
2023/04/10 訴訟対応, 消費者契約法
はじめに
大阪市内で開催予定だったランタンを飛ばすクリスマスイベントが中止になったにもかかわらずチケット代金が返金されなかったのは不当だとして、消費者団体が運営会社を提訴していたことがわかりました。購入者は数百人にのぼるとされます。今回は消費者団体による共通義務確認訴訟について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、イベント運営会社「スターリーカンパニー」(神戸市)は2021年12月17日~19日の3日間、大阪市住之江区の住之江公園で、発行ダイオード(LED)を点灯させたランタンを参加者が一斉に空に飛ばす有料イベントを企画していたとされます。しかし17日と19日は強風のために中止となったものの、「天候不良などで中止となっても返金はしない」とのチケット規約を理由に返金はなされなかったとのことです。これに対し特定適格消費者団体である「消費者支援機構関西」は、当該規約が消費者契約法に違反し無効であるとして、チケット代金の返還義務を負うことの確認を求め大阪地裁に提訴しました。
共通義務確認訴訟とは
共通義務確認訴訟とは、内閣総理大臣の認定を受けた「特定適格消費者団体」が原告となり、事業者が多数の消費者に対して負う共通の原因に基づく金銭支払い義務の確認を求める訴訟を言います。本来消費者が事業者から何らかの被害を受けた場合、その被害回復は個々に自力で交渉・提訴する必要がありました。しかし事業者と消費者では情報や経済力などの点で交渉力に大きな格差があり、また時間や費用、労力の面でも消費者が自力で行うことは困難で、結局泣き寝入りすることが多いと指摘されておりました。そこで「消費者裁判手続特例法」が制定され、平成28年10月1日に施行されました。一定の要件のもと、消費者団体が多くの消費者に代わって事業者と訴訟を行います。以下具体的に手続きを概観していきます。
被害者救済の具体的な流れ
対象となる事業者と消費者との間での紛争が生じた場合、その救済手続きは大きく共通義務確認訴訟と簡易確定手続きに分けられます。まず特定適格消費者団体が共通義務確認訴訟を提起し、審理がなされ、共通義務を認める判決等が出たら、次に簡易確定手続きによって個々の消費者の権利の確定を行います。簡易確定手続きに入りますと、特定適格消費者団体はわかっている消費者に手続きや制度について通知し、さらに団体のウェブサイト等で広く公告します。これを受けた消費者は団体に対して自らの請求について手続きを進めるよう授権を行います。授権を受けた団体は裁判所に債権を届け出、事業者側の認否を確認し、争いがある場合には裁判所による簡易確定決定がなされます。この判断に不服がある場合は異議を申し立て、通常の訴訟に移行することとなります。
共通義務確認訴訟の対象事件
共通義務確認訴訟の対象となる事件は、消費者契約に関する金銭の支払請求となります(特例法3条1項)。具体的には契約上の債務の履行請求、不当利得に係る請求、契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求、不法行為に基づく損害賠償請求となります(同項各号)。逸失利益や拡大損害、人身損害、慰謝料などは対象外となっております。被告となるのは相手方となる消費者契約の事業者とその補助者、勧誘者なども含まれます(3項1号、2号)。さらに被害を受けた消費者の数が「相当多数」であること(2条4号)、それら消費者に「共通する事実上及び法律上の原因」によるものであることなどが求められます。多数の共通する被害を集団的に回復する制度だからです。
コメント
本件で消費者支援機構関西の主張によりますと、スターリーナイトカンパニーは、天候不良などにより中止されても返金はしない旨のチケット規約を理由に返金を拒否しているとされます。チケット購入者は少なくとも数百人にのぼると見られております。消費者契約法10条では消費者の利益を一方的に害する条項は無効としており、共通義務確認訴訟の適用対象となるものと考えられます。以上のように多数の消費者との間で消費者契約上の紛争が生じた場合、特定適格消費者団体により提訴されることが有りえます。いわゆる日本版のクラスアクション制度とも呼ばれております。従来は泣き寝入りしていた消費者もこれにより救済される可能性が出てきたということです。契約当事者だけでなく、このような消費者団体からも提訴されることがあるということについて社内でも周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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